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2008年03月30日
New York 美術探訪
其の一 建築編
by Kyoko Nomura
歴史的な美術館から街の落書きまで、至るところにアートがしみこむ街NY。その世界に詳しい誰かに案内してもらい、今までと一段違った芸術を堪能してみたい。
建築の都ニューヨーク。NY在住の建築家・廣木邦明さんと共に、マンハッタンを歩いてみた。
廣木さんに今の建築をひとことで表してもらうと、「透明なガラスで、装飾のないシンプルな箱」。建築の歴史を素材という点でかなりおおまかに見ると、重いものからだんだんと軽いものになっていくという。重厚な石(煉瓦)から石と鉄になり、鉄とガラスからガラスだけに。「建築家は、ガラス張りで壁の見えない透明な建物に対する憧れを持っているんですよね」。今回はその見えない建築を見て歩く。
ガラスでないもの
使うべからず
(1)「アップルストア」
5番街にそびえ立つ、まさに透明なガラスの箱。光と角度によっては壁が透けてほとんど見えず、同社のりんごマークだけがぽっかり宙に浮いているよう。近づいて見ると、壁も柱もすべて3枚から5枚重ねたガラスの組み合わせ。鉄の枠はなく、つなぎ目として申し訳程度の金具が使用されている。「ガラスは強度を高めるために重ねていますが、普通のガラスを重ねたり厚くすると緑色が濃くなってくるんです。でもこれは高透過ガラスを使っているのでこれだけ重ねても透明なままですね」。階段も、エレベーターもすべて透明。宙を歩いて、宇宙船で未来の世界へ入っていくような感覚。世界最先端のコンピューターを扱う、未来に一番近い場所ってことでしょうか。
格子模様で
5番街を輝かす
(2)「ルイ・ヴィトン」
どれほどの日本人が足を運んだか知れないお店。「外装は青木淳の設計です。大理石のビルに、柄をプリントしたガラスを部分的に重ねています。ガラスとガラスの間に鉄の構造体がなく、よくみるとゴムのようなつなぎはあるものの『ガラス以外のものは見せたくない』という姿勢がうかがえます」。その数件先の「クリスチャン・ディオール」のビルもガラス張り。「これは少し前のビルなのでまだ構造体が見えるでしょう」。なるほど新しいものほどツルツルの表面になっていく訳ですね。
省エネで"グリーンビル"代表
(3)「ハースト・タワー」
8番街にたどりつくと、三角形のガラス窓が模様のように連なるビルを発見。「イギリスのノーマン・フォスター作のオフィスビルです。彼はサー(卿)の称号を持つ建築家としても知られています。実はこの形状にすることでデザイン的に綺麗なだけでなく、鉄骨材の使用を通常の2割削除し、自然光を利用することによって、省エネルギーに大きく貢献しました」。一見奇抜なハイテク建築と思いきや、中身はそんな自然と共存するエコロジーなハートを持っていたのですね。
ルーバーを
活かした透明感
(4)「ニューヨーク・
タイムズ」本社
さあ、やってきました。ポートオーソリティー・ターミナルをどーんと見下ろす高層ビルは迫力満点。かと思いきや、なぜかそんな威圧感はない。いや、むしろエレガント。「ガラス張りのビルの、あえて外側にルーバー(日照調整などのための羽根状の板)を取り付けています。こうすると、むしろガラスだけよりも、透明感がさらに強調されますよね」という廣木さんも興奮気味にカメラのシャッターをパシャパシャ。「イタリアのレンゾ・ピアノ作です。彼の代表作にパリのポンピドゥーセンターがありますが、これも構造体をあえて外に出すハイテク建築です。外に力強いものを出す、隠さずに見せるというコンセプトですね」。眺めていると、何万部も重なった透明(濁りのない真実)な新聞が空に向かって永遠に延びて行くようにも見える。1階ロビーに入って行くと、中央にガラスのショーケースに入ったかのような見事な苔庭。日本の侘び寂びの心が、この時代最先端のど真ん中に座っている。またその1階店舗テナントを早々押えているのがMUJI米国旗艦店というのも、興味深い。
レンガを切り取りショーケースに
(5)「ヨウジ・ヤマモト」フラッグシップ店
2月にミートパッキング地区にオープンしたばかりの、ヨウジ・ヤマモトの旗艦店は、売れっ子石上純也氏の設計。実施設計と監理は案内人の廣木さんです。「シンプルな中にも緩やかなカーブを描く高透過ガラスを使っています」。鋭角な三角形の建物で、方向により見える形がとてもユニークで、周りをウロウロ してしまう。そして既在のものを使ったというレンガ造りの壁と、大きなガラスの組合わせが、シャープなのに温かみが残っていて素敵。

白とガラスで心地よい暮らしを
(6)コンドミニアム「173・176ペリーストリート」「165チャールズストリート」
ハドソン川を見下ろす、3つ並んだモダンな建物は、リチャード・マイヤー作。この超高級集合住宅にはマーサ・スチュワートやニコール・キッドマンなどセレブ購入の話題が絶えない。「リチャード・マイヤーはロスのゲッティーセンターを作った巨匠ですが、このペリーストリートのコンド(写真左2つ)が、近年の有名建築家が設計する高級コンドミニアムのラッシュに火をつけたと言えます。チャールズストリート(写真右)はその2年後に建てられました」。ちなみに1階のレストラン「ペリーストリート」はジャン・ジョルジュの店。セレブの住人のダイニングは、やっぱりセレブシェフでないとね。
優雅に波打つ
ガラスの彫刻
(7)「IAC」NY本社
ビルがこんなぐにゃっとしていていいのでしょうか。「曲線を使い、ひとつのアート作品として見せていますね。その基本はディティールをなくしガラスという同じ素材でつぎはぎを目立たないようにしている。これもルイ・ヴィトンのビルと同じようにガラスに白いプリントをしています。遠くから見ると、曇りガラスの様で幻想的な雰囲気ですよね。これを作ったフランク・O・ゲイリーはビルバオ・グッゲンハイム美術館を作り、スペインの工業都市ビルバオに急激に観光客を増やして成功させました」。角度によって見え方も多様な不思議な形だ。IACはシティサーチやチケットマスターなど60以上のブランドを持つメディアグループ。ハイライン(旧貨物鉄道高架跡)の再開発プロジェクトで話題を呼ぶエリアにあって、名物のひとつとなっている。 (写真/解説 廣木邦明)

