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2008年03月09日
女子プロボクサー
中村千香選手
限界に挑み続けることがボクシングの一番の魅力

ひとりきりの挑戦を続けている女子プロボクサーがいる。渡米から10年、プロデビューから5年。無敗記録を伸ばしながら、さらなる高みを目指している。 彼女を奮い立たせるものは何なのか。闘いの先にあるものはー。中村千香の現在地を探った。(取材・文 Kotaro Okada)
ひとりの日本人として国際社会に貢献したい
中村千香は、いつも楽しそうに話す。一度会話を交わすと、その場に笑顔の輪が広がっていく。そんな彼女の人柄に触れると、生命を賭けて戦うボクサーという人種からは一見遠い印象も受けるが、これまで歩んできた道のりは決して平坦ではなかった。
今から約10年前に遡る。「世界チャンピオンになる!」という目標を抱き、単身ニューヨークに渡った20歳の中村は、強くなることを日課にボクシングに明け暮れた。「最初はブロンクスのアパートとブルックリンにあるジムを往復するだけの生活でした。あの頃はホントお金もなくて、1セントでも見つけると大事にとっておこうという感じだった。欲しいものも買えないし、友達とご飯を食べに行きたくてもお金がなくて断ってました。だから、友達も離れていきましたね」。そんなストイックな生活が中村の才能を後押しし、02年にアマチュア最高峰の大会と言われるゴールデン・グローブで、日本人として初優勝を飾る。プロ転向も近いと騒がれたが、ビザの問題などで3年間デビューできない不運に見舞われた。
「プロになりたいと思ってから、マネージメントやプロモーターが決まらない日々が続いて…。試合もできないし、翌月の生活がどうなるかも分からない状態で、何年も過ぎていきました。あの当時は、(ボクシングが)好きという気持ちだけでがむしゃらに突っ走ってましたね」
順調に見えた
07年だったが…
その後、持ち前のポジティブな性格と不断の努力で05年にプロデビューにこぎつけてからは、ここまで6戦6勝(2KO)とチャンピオンへの階段を着実に上がってきた。そして中村の挑戦に日本のメディアも注目。昨年はテレビや雑誌での露出が激増し、ニューヨークで戦う女性として、広く認知されるようになった。
周りからは順調に前進しているようにも見えたが、実際には彼女が経験したこともないくらい苦しい1年だったという。
「後で知ったのですが、占いでは大殺界にあたる年だったみたいで(笑)。まずプロモーターとのトラブルが原因で対戦相手が決まらず、試合(昨年は2試合)をこなすことができなかった。それと、怪我も多かったですね。メディアのインタビューとかも全部自分で仕切ろうとしたら、試合前日に風邪をひいたり、怪我したり、やっぱり無理が出てきてしまって…。そういう意味で、昨年はとても大変な年でした」
怪我をして気づ
いた本当の夢
リング外でのトラブルに加えて、アスリートにとっては致命的ともいえる怪我。渡米以来、ひたすら走り続けてきた中村にとって、初めて立ち止まることを強いられた1年だった。「今まではボクシングをすることが当たり前だったけど、怪我をしたときに人生何が起こるか分からないんだってことを痛感しました。それで、自分にとってチャンピオンになって、お金や名誉を手に入れるのだけが目標でいいのか、もっと本当にやりたいことがあるんじゃないかという疑問が生まれたんです」
実は、中村がチャンピオンの“向こう側”にある目標を口にしたのは、これが初めてではない。プロとしてのキャリアをスタートして間もない頃、「チャンピオンになることは目標ですし、なるつもりです。それと同時に、ひとりの日本人女性として国際社会に貢献できる活動をしたい。女性や子どもに夢を与えられる人間になりたいんです」と目を輝かせて語っていたことを思い出した。
そして2年の歳月を経て、あの頃の想いはさらに強くなっているという。
「昨年ボランティアを通して、病気や障害と戦う子どもたちと接する機会がありました。その時、将来は人のためになるような活動がしたいと強く想うようになりました。何ができるかは、まだはっきりと形になっていないのですが、チャンピオンになったときに自分の経験した事や、辛かった事とかを話すことで、相手に理解してもらえたらと思うんです」
世界一は通過点
16歳の頃、ボクシングに出会って以来、目標だった世界チャンピオンが今は人生の通過点でもある。ここまで圧倒的な強さで勝ち進んできただけに、念願の王座が手の届くところに来たようにも見えるが…。「正直なところ、今すぐなりたいという気持ちもあります。でもトレーナーから、10年も苦労してきて最後の一番大事な時に焦って、無敗記録を無駄にしてはいけないと言われて。今はとにかく焦らず、8回戦をまずやって、それから10回戦というように、目の前の試合に勝つことにフォーカスしています。今年は7、8試合くらい戦って、勝って、(チャンピオンシップは)来年挑戦したいですね」
限界の先に見え
てくるもの…
最後に、ボクシングの魅力について聞くと、目を輝かせてこう答えてくれた。
「私は人を殴ったり、(相手を)ノックアウトすることに感動を覚えないんですね。それよりもやっぱり、エッジ(限界)で挑戦し続けること。走るにしても、やめようと思えば、やめられるんですよ。スパーリングでも、もう疲れて、殴られて、ワケが分からなくなっても、まだパンチしてる。そこに価値を置いてるっていうか。限界に挑むことが(ボクシングの)一番の魅力だと思いますね」
がむしゃらな戦士は我慢のときを経験し、またひとつ成長した。限界の先には何があるのか。明確な答えはまだ見えてこない。しかし、大事なのは挑戦し続けること。チャンピオンベルトの重みを知ったとき、どんな中村千香に会えるのか。今から楽しみでならない。
(文中敬称略)
中村千香(なかむら・ちか)
1977年奈良県生まれ、大阪育ち。アメリカ女子プロボクシング界で活躍するボクサー。20歳で渡米後、ニューヨークの名門ジム「グリーソンズ・ジム」でトレーニングをはじめ、2002年にはマディソン・スクエア・ガーデンで行われるアマチュア最高峰の大会ゴールデン・グローブで日本人として初の優勝を飾る。その後プロに転向し、現在は伝説の元チャンプ、カルロス・オルティスを専属コーチに、6戦6勝(2KO)と無敗記録を更新中。WBANライト級7位(07年7月1日時点)WIBAライト級11位(07年8月22日時点)。
【ウェブ】www.chikanakamura.com

