80年代以降、米国人の健康志向の高まりを受け、一躍注目を集めた日本食。ブームの到来により90年代後半に米国で5000店を数えた日本食レストランは、2011年には1万4000店を超え、そこで飲まれる日本酒も、日本産から米国産へ。米国生産30周年を迎えた米国 宝酒造の歩みと「松竹梅」の魅力に迫る。
日本を代表するよろこびの酒が米国でも認められた瞬間
1982年、宝酒造の米国における生産・販売拠点として設立されたカリフォルニア州バークレーの醸造所。今から30年も前に同社がここを米国の拠点に選んだのは、良質なカリフォルニア米が生産されるサクラメントに近くてシエラネバダの軟水も手に入りやすく、気温が常に安定している─という酒造りに欠かせない条件を備えていたからだという。また同地の周辺にはワイナリーが多いことから、酒に対する意識も実に高かったのだ。
しかし、どんなに良い条件が揃っていると言っても、ここは米国。日本人の私たちにとって、当たり前のことが当たり前ではない国である。米国産の米と水を使い、日本では「よろこびの酒」として圧倒的な認知度と高いシェアを誇る同社を代表する銘酒「松竹梅」を生産するには、並々ならぬ苦労と悩みがあった。「酒はやっぱり日本産」「米国産の酒は安いだけで旨くない」という声を耳にしながら、日本人スタッフと現地スタッフは米の磨き方、米を水に漬ける時間、使用する水の量など、試行錯誤してきた。長年の伝統と共に守るべきものは守り、発展させるべきことは発展させたその結果─。
2011年、米国の日本酒愛好者団体である国際酒会が主催する「全米日本酒歓評会」の純米酒部門において金賞を受賞した。
日米154社から出品された326点のうち、日本産以外での金賞受賞は同社の「松竹梅クラシック」のみという快挙である。さらっと口当たりの良い淡麗酒が多いなか、米の旨味をしっかりと引き出した同品が評価された意味も大きい。米、水、麹のみを使用した昔ながらの酒造りにこだわり、純米酒を造り続け、米国内の日本酒市場では現在シェアナンバーワンを誇っている。同社の技と底力を「松竹梅」に見た出来事である。
目指すのはワインのような日常酒
バークレーには工場のほか、テイスティングルームとミュージアムも設けられている。テイスティングルームは入場無料で、日本酒・プラムワインなど14種類の酒を気軽に試飲することができるとあって年間1万人もの人が訪れ、口コミサイトYelp.comでは4つ星半の高い評価を得るなど、米国人の間では人気のスポットとなっている。隣に併設されたミュージアムでは、酒造りに必要な全ての道具が展示されており、日本酒の製造方法を手に取るように学ぶことができる。
近頃は日本食レストランだけでなく、さまざまな国籍のレストランやスーパーマーケットでも「松竹梅」を目にする機会は多い。寿司、天ぷら、焼鳥、ラーメンといった日本食に限らず、いろいろな料理と共に日本酒が楽しまれるようになり、日常生活に溶け込みつつある。
しかし、米国生産30周年を迎えた同社が目指すのは、「ワインのように家庭で気軽に毎日楽しめる酒」だ。そんな明日を見据え、こだわりと試行錯誤の酒造りはきょうも続いている。
■問い合わせ
◎米国 宝酒造株式会社
TAKARA SAKE USA, Inc.
708 Addison St, Berkeley, CA 94710
510-540-8250
www.takarasake.com
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