高騰する住宅市場に加え、物価高や就職難などの厳しい経済状況が続く中、家族を持つ若いニューヨーカーにとって、アパートの購入は夢のまた夢だ。昨年のニューヨーク市民の平均年収は5万886ドルで2000年からほとんど変動がないうえ、市民全体の約3割もの人々が収入の半分を家賃に充てているのが現状だ。
ニューヨーク市立大学(CUNY)大学院社会学教授のフィリップ・カシニッツ氏によれば、ここ数年で住宅状況が特に厳しくなっているのには主に3つの原因があるという。
①家賃の高騰および家賃規制アパートの減少②いったんは郊外に移住した富裕層が、より良い教育環境で子どもを育てるために都市部に戻りつつあるため、そして③私立学校の高い学費を嫌う親たちが、評判の良い公立学校がある地域に引っ越すケースが増えているため—だ。
この影響を最も顕著に受けているのが若者層で、2011年の調査によれば、35歳以下の夫婦の貯蓄額は1984年と比べて68%も低下しているという。また、収入が貧困基準を下回る若者世帯は、1967年から2010年にかけて12%から22%に増加している。
これに加え、マンハッタン区では3ベッドルームの販売価格が1997〜2010年の間に約40万ドルから250万ドルと6倍以上に跳ね上がっている。ブルックリン区でも、評判の良い学区や犯罪率が低い地域は値上がりが著しいという。
狭いアパートでの子育てに苦戦する市内の若者夫婦は、州外への引っ越しや親との同居を検討したり、低所得者用住宅に応募するなどして、「家を購入してしまうと家族を養えない」という過酷な現状を生き延びている。