英語話せないDV被害者を軽視 NYPD、翻訳怠り事件へ発展

 ニューヨーク市では近年、英語を話せない移民を巡る家庭内暴力(DV)の被害が深刻化している。昨年には、「市警察庁(NYPD)が被害者に対する翻訳・通訳サービスの提供を怠り、人種差別的でずさんな捜査を行っている」として、ヒスパニック系の女性6人と人権団体がNYPDを相手取り、訴訟を起こしている。
 そんな中、ニューヨーク市クイーンズ区で先月18日、以前から警察にDVの相談をしていたグアテマラ出身のデイジー・グラシアさんと娘のダニエラちゃん(2歳)、ヨセリンちゃん(1歳)が、グラシアさんの夫であるミゲル・メジアラモス被告に刃物で刺され、殺害された。
 グラシアさんは昨年5月、NYPDに「私と娘はいつか夫に殺される」とスペイン語で相談していたが、この報告書は翻訳されないままであった。
 グラシアさんの母親は、「事件後に娘の相談記録を入手しようと警察を訪れたところ、対応した女性職員に『何を言っているかわからないので、何もしてあげられない』とあしらわれた。おそらく娘も同じような扱いを受けたことだろう」と話す。
 NYPDへの訴えを起こした原告団の代理人は、「グラシアさんのような事件は予想できたこと。警察は英語を話せないDV被害者に対し、適切な対応をしていない」と指摘している。
 原告団のひとりであるメキシコ系移民のアルレット・マカレノさんは2012年8月、夫に階段から突き落とされた後、警察に相談した際に繰り返し通訳を要請したが、警官はこれを無視したと主張している。
 NYPDの広報はこの訴訟に関し、「内部で見直しを行い、DVの被害届があった場合の通訳または翻訳の取り扱いについては、職員に口頭で指示した」としている。
 NYPDには現在、「通訳資格」を持つ職員が1200人おり、通訳・翻訳者がすぐに手配できない場合はこのうちの誰かが現場に呼ばれるという。この手配は、相談内容が逮捕・起訴に値するか否かに関わらず行われることになっている。