「地に足がついた仕事をしていないと不安になる」
乗るはずだった飛行機が雪の影響でキャンセルとなり、数時間前にやっとニューヨークに着いたという彼女は、ピンクを基調にしたリボンやフリルに飾られたワンピース姿で「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。キチンと人の目を見て話を聞き、質問の意味を正しく理解し、自分の考えを瞬時に過不足なくまとめ、生きた言葉で返して来る。終始笑みを浮かべ柔らかい物腰だが、美しい言葉遣いで、とても礼儀正しい。スマートな人──それが彼女の第一印象だった。
高校生の頃からロリータファッションが好きで、読者モデルとなる。ある日、撮影現場にスーツ姿の3人の男性がやって来た。2カ月後の2009年、外務省から「カワイイ大使」に任命される。その記者会見に、当時、大学病院で看護師として勤務していた彼女は、夜勤明けで臨んだという。2年の任命期間中、日本のカワイイ文化の親善大使として世界中を飛び回る。訪れた中には、ファッションに制約があり、自由ではない国もあった。
日本で生まれ、小説「下妻物語」が映画化された04年頃にブレイクしたロリータファッションだが、「世界では人気があり盛り上がっているのに、まだ日本ではコスプレと混同されていて、認知度も地位も低い。『不思議ちゃん』が着ているようなイメージや、親から反対されている現状をなくしたい」と13年に日本ロリータ協会を設立した。その活動は日本国内に留まらず、昨年1年だけで世界13カ国を訪れた。
驚くことに、彼女はこんな生活をしていながら「今も看護師」であり、「モデルは趣味」だと笑う。「カワイイ大使」任命後はさすがに大学病院での仕事は続けられなくなり、現在は在宅看護の仕事をしているそうだ。若い女の子なら、誰もが憧れるモデルという仕事。キレイな洋服を着ることができ、世界中に行ける環境にありながら、それでも看護師を辞めない理由(わけ)を尋ねると、「モデルの仕事はフワッとしている。地に足がついた仕事をしていないと不安になる」と意外な答えが返って来た。「看護師の仕事は、中学生の頃からの夢だった。女性が汗して働いている姿はキレイだと思う」と──。
人間と人形の狭間の2・5次元の世界を生きるロリータ。このファッションの時は走らないし、怒らないという彼女。その理由は、「ファッションに傷がつくと思うから」。ファッションとは、その人の生き方である。ロリータの地位向上だけではなく、ピンクリボン運動や献血活動などの社会貢献もしていきたい──と語る彼女は、しっかりと地に足のついた人だった。
■プロフィール
千葉県出身。雑誌「KERA」「ゴシック&ロリータバイブル」といったロリータファッションのカリスマ読者モデルとして活動しながら、看護師としての仕事も持つ。2009年には外務省より「カワイイ大使」に任命され、海外にロリータファッションを広めるため、20カ国を歴訪。13年、日本ロリータ協会を設立し、会長に就任。11年の「青木美沙子のカワイイ革命~ロリータときどきナース~」に続き、「ロリータファッションBOOK」を3月末に発売予定。
ameblo.jp/ribbon-misa