対談 茶道家千宗屋×現代美術家杉本博司 ~千利休とマルセル・デュシャン~

photo: George Hirose


 ジャパン・ソサエティは17日、茶道家・千宗屋氏と現代美術家・杉本博司氏による講演会を開催した。
 「千利休とマルセル・デュシャン」と題された同イベントは、16世紀に茶聖として日本のわび茶を完成させた千利休と20世紀の現代美術の先駆者であったマルセル・デュシャンを取り上げ、生きた場所も時代も大きく異なる二人だが、平凡な日常から己の哲学と芸術を突き進めた点において重なる部分があり、それぞれの分野で大きな改革を成し遂げたことに焦点をあて、解説された。
 二人の創造性と共通点、彼らが目指したものを現代の茶の湯と美術制作においてどう引き継いで実践していくかを、杉本氏と千氏が過去に共同開催した茶会やその設え、千氏が監修して杉本氏が設計した茶室、杉本氏の作品や展覧会などの例を見せながら解き明かした興味深い内容となった。
 千氏は分かりやすく茶の湯の歴史を語り、「利休はアーティスト気質の強い人物だった思う」と、利休の肖像や勅使河原宏監督作品「利休」を見せた。また、デュシャンや自身の作品をパネルで見せながら、ユニークで引きつける語り口の杉本氏に客席からは笑いも起こり、深く聞き入っている人の姿も見られた。
 参加者からの「これからお茶の世界はどうなっていくか」という質問に対し、千氏は「新しいことをしようとか、しているという気はない。考えるのは、利休が今生きていたらどうするかという問い掛け」とし、「利休は自分の時代にコンテンポラリーなことをした。現代にふさわしいお茶が何かと考えると、結果としてまったく新しいものが自然とうまれる。自分がしていることも同じ」と述べた。
 杉本氏も「ユニークであるべき、自分のアートにしていかなくちゃいけない。ある種のレベルに達したら自己の個性を高めていくことをした方がいい」と述べた。
 最後に「私は杉本さんと同じく古典主義者だと思っている。利休もデュシャンもそうだったのではないか。あるレベルに達するまで、徹底的に古典を勉強し考え、伝統をインプットして、結果として自分がアウトプットしていく」とし、「すべての伝統はコンテンポラリーだと思います」と千氏が締めくくり、超満員の会場では大きな拍手が沸き起こり講演会は終了した。

ⒸHiroshi Sugimoto

☆印象的だった言葉
-お茶は人の営み
-伝統という言葉を使う時に、伝統とは何を成しているかということを常に問い掛けなければいけない
-個人の差異を際立たせるために型がある
-解釈はその時代時代に相応しい在り方がある

【杉本博司】 (すぎもと・ひろし)
 日本を代表する現代美術家、世界中でもその名は広く知られている。
 1948年東京生まれ。立教大学卒業後、70年に渡米、74年よりニューヨーク在住。徹底的にコンセプトを練り上げ、精緻な技術によって表現される銀塩写真作品は世界中の美術館に収蔵されている。近年は執筆、設計へも活動の幅を広げている。
 古美術、伝統芸能に対する造詣も深く、演出を手がけた三番叟公演『神秘域』(野村万作・野村萬斎共演、2011年)はJSとの共催で2013年3月にグッゲンハイム美術館にて再演(野村萬斎出演)、4月には日本凱旋公演も行われた。

【千 宗屋】(せん・そうおく)
 1975年、京都市生まれ。武者小路千家15代家元後嗣、明治学院大学非常勤講師(日本美術史)、慶應義塾大学総合政策学部特任准教授。14年より京都国際観光大使に就任。2001年、慶應義塾大学大学院修士課程修了。03年、後嗣号「宗屋」を襲名。同年大徳寺にて得度、「隨縁斎」の斎号を受ける。08年~09年、文化庁文化交流使としてNYを拠点に活動。
08年より慈照寺(銀閣)の国際文化交流事業に参加。領域を限定しない学際的な交流の中で、茶の湯の文化の考察と実践の深化を試み、国内外で活動。著書も多数。