万葉の昔を懐かしみ、その美しさを称賛する、まろやかな味わいの純米酒「黒牛」を生産する名手酒造店は、慶応2年(1866年)創業。その酒は比較的柔らかい酒質と幅の広い味わいで、愛飲者も多い。若手から先達まで、幅広い層の職人たちの手と心で丹精込めて作られる日本酒の魅力を紹介。
精魂込め、労力を惜しまず丁寧に醸される日本酒
今や和歌山地酒の代名詞となっている「黒牛」。約1300年前、この酒を世に送り出している名手酒造店周辺には浜辺があり、そこに黒い牛の形をした岩が存在し、万葉集に「黒牛潟」と詠まれていることに因み、酒銘。また、地元の伝承を背負い、正統な純米酒を醸していく覚悟を酒の味で表現している。この味わいを造り続けていく覚悟は並のものではない。家業であれ企業であれ顧客の望むものを造ることができなければ生き残れない。小規模の蔵を継続させることへの覚悟は、「酒で出来た家なら酒に返せばよい」とし、現在も真摯に日本酒造りを行なっている。「本物の酒造りを通して、人と人とのより良いコミュニケーション作りに役立ちたい、伝統文化や環境を守り、地域と共に繁栄することを誓う」という経営理念もそこに精通しているといえる。また、生活文化としての酒造りの姿と心を伝えるため、各種の清酒製造器具・道具類などを展示する「温故伝承館」の運営もしている。
大阪から南へ約70キロ、和歌山県北部の沿岸部に位置する海南市黒江は、室町時代から漆器の産地として栄えた職人の街、同酒造店では地元出身の若手職人たちが丹精込めて酒造りを行なっている。
選び抜かれた米と名水
純米醸造酒が95%とほぼ純米に特化、自家製米にこだわり蔵内に精米所を併設、より優れた酒米を確保するため、製造者自ら産地農家を訪れ、直接買い付けも行なう徹底ぶりだ。
仕込み水は、紀州の名水「万葉黒牛の水」と同水脈である蔵の井戸水を精密ろ過したミネラル豊かな弱軟水を使用。価値のある本物(純米酒)を追い求め、こだわって醸した「純米酒 黒牛」は、柔らかい香りが漂い、米の旨みを絶妙に引き出している。幅のある味わいに仕上がった同酒造定番の食中酒で、やや甘口のあっさりとした口当たりは、タレで食す焼き鳥などの濃い味と相性がいい。
1990年頃から10年程度の期間に「日常生活で親しまれる本物のお酒」にこだわったことが受け入れられ、出荷量は品質を保つ意味での上限付近に達している。リキュール用の純米酒、輸出も合計した総出荷量は、10年以上ほぼ安定しており、その人気を博している。
伝統的で古い体質の業界と言われてきた酒業界だが、徐々に体質転換が進んできており、その流れを作り変えていると言っても過言ではない「黒牛」の杜氏たち。下は30代からの酒造りの職人たちは、今年も間もなく製造時期に入る。原料米は毎回取り合いになり、特に兵庫産の山田錦などは確保が困難だ。今年は、洗米、蒸し、放冷に至る原料処理過程を一新し、やや増産となり、製造期間は通常よりも延びそうだ。270kl程度の原酒を造ることは大変だが、それを物ともしない酒造りにかける情熱と地元愛で作り上げられる重厚感のある日本酒。寒い風が体にしみる季節、温かい食事と共に「黒牛」を味わってみてはいかがだろうか。
株式会社 名手酒造店
和歌山県海南市黒江846
www.kuroushi.com
販売元 : JFC International, Inc.
www.jfc.com
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