食を超えた、その先を提供したい
「私がインスパイアされるのは、世間を騒がす食べ物のトレンドや他のシェフの動向ではなく、美しいアートや音楽、人が作る文化そのものです」と語るのは、「NYビンナーズ」でエグゼクティブ・シェフを務めるライアン・スミスさん。
ニューヨーク州サラトガスプリングで育ち、15歳で料理の世界へ飛び込んだ後、ワシントンDCへ移住。ジョージタウンの最高級ホテル、リッツ・カールトン内のレストランなどを経て、シェフとしての腕を磨いてきた。2008年にニューヨークへ戻ることをきっかけに、自身の肩書きにコンサルタントを加えた。「単に食べるだけではなく、それ以上の体験を提供したい」という思いからだった。「元々人と直接語り合うのが大好き。よくキッチンを飛び出して、ダイニングの顧客に話しかけに行っていました」と笑う。キッチンにこもり、食事を作るだけのシェフでいたくない。その思いを強くして、現在のNYビンナーズに参画したのは11年。この店舗は、スミスさんにとって、まさに理想の城のようだという。
この場所は、さまざまな顔をもつ。オフィスであり、ワインショップであり、パーティ会場であり、ワインと料理の教室である。アーティストのスタジオ、ワインセラー、プライベート・ダイニングの側面ももっている。食を通じて、トータルプロデュースをしていきたい、というスミスさんの夢を実現していくための大事な空間だ。
「人がレストランを出る時、持って帰るのは食べ物ではない。レストランで過ごした思いそのものを持ち帰るのです」という言葉に、食べることを通じて人を感動させたいという熱意が伝わってくる。
シェフのとっておき
「塩」
最近、特に凝っているのが、塩だという。世界中から味や含有物において、いろいろなタイプの塩を集めている。これは著名なフランス産のもの。「この塩は、カリウムやマグネシウムなどのミネラルを多く含むので、味が豊かになります」
取材協力:KORIN
取材:山田恵比寿