矛盾に満ちた終戦前後の女性を描く 現代美術作家のやなぎみわ
日本を代表する現代美術作家のやなぎみわが、脚本、演出から舞台美術、衣装まですべてを手がけた演劇作品「ゼロ・アワー:東京ローズ最後のテープ」が、先月29日〜31日にジャパンソサエティ(JS)で上演された。これは、今年で戦後70周年を迎えるにあたり、JSで開催している特別プログラム「戦後70周年−戦争を通して語ること」シリーズの一環であり、やなぎの作品がオープニングを飾った。
太平洋戦争中に日本政府が連合軍に向けて発信していたプロパガンダ・ラジオ放送の女性アナウンサー(東京ローズと呼ばれていた)を題材にした同作品は、戦中の日本、戦後の米国と二つの間で人生を翻弄された実在の日系人女性を主人公にしている。
「制服は日本の近代化の象徴の一つ」というやなぎの作り出す世界の主役たちは皆、エレベータ—ガールのような制服を着て、帽子を被っている。日本の公演時とは、キャスト、衣装、ダンサーと役者から成る人数配分も変更している。ダンサーを増やしたことに触れると、「脚本は一緒でも、体で表現するダンサーと、内面から表現しようとする役者が混ざることで、具象絵画と抽象画が混ざったような感覚」と語る。また、同じものを伝えるにしても、表現方法が違い、求めているものが違う両者に対して、「説明のやり方を変えないと全然伝わらないところが楽しい」と、今回の演出を振り返る。
やなぎにとっては、今回が日本国外での初の演劇公演であり、戦後70年という記念すべき年に米国公演を果たしことに、「本当に偶然だったので嬉しく思う」と言った。
JSの芸術監督の塩谷陽子はこの作品について、「日本社会における女性の地位の葛藤と矛盾を示している。この女性たちは、日本の女性としてしばしば典型的に表現されるような〝弱々しく内気な女性〟ではなく、力強い意思を持っている。しかし、〝女〟という性がゆえに社会的に抑圧された存在であり、その人生は戦争により翻弄されてしまった」と話す。公演に訪れた日本人女性(32)は、興奮気味に「東京ローズが自分のように見えた」と話し、作家が伝えたかった意図を感じ取ったようだった。演劇は〝今〟を発する表現。今を生きている人間が、昔の人の声を再現し、現代に生きている人々へ伝える。それは、簡単に聞こえるが凄いことだとやなぎはいう。
現在までにやなぎが制作してきた写真作品には、一切の隙がない。それは、舞台でも同じで、役者に対しても隙をゆるさない。では自分自身に対してはどうなのかと聞くと、「すべて舞台で解決しなければならない。作品がうまくいっていなければ、他のことは対処療法にしかならないから、リフレッシュはしない」と骨の髄まで芸術家であり、自分にも完璧を求める人なのだと思った。
今後、ワシントンD.C.、メリーランド、トロント、ロサンゼルスを巡回する。日系米国人、米国人はどのようにこの物語を感じるのか、期待が高まる。(Watanabe)