首里城見守る瑞泉が起こす奇跡
本日のつまみになる話は泡盛の「瑞泉酒造」に焦点をあてていきます。皆さんご存知の通り泡盛は沖縄で造られている焼酎です。ここではっきりさせたいのが原料。実は泡盛は米焼酎の親戚で、原料はタイ米です。沖縄の酒ということからか原料はさとうきびや黒糖だと思われがちですが、タイ米と沖縄の高温多湿という気候に最適な黒麹菌が使用されていることが泡盛最大の特徴です。また、沖縄県は日本最古の蒸留酒が造られた場所と言われています。
そして本日の主役、瑞泉酒造のお話。瑞泉酒造(株)はその名の通り泡盛を代表する銘柄「瑞泉」を製造、販売している蔵です。同蔵は今年で創業128年。はるか昔、明治時代から宮廷酒として高い品質を保持し、味を守ってきた伝統のある蔵です。そんな瑞泉酒造も一度、存続の危機を迎えます。第二次世界大戦終戦直前の沖縄戦です。この戦争で沖縄県内の泡盛製造所は壊滅し、長年守ってきた伝統の味造りに必要不可欠な黒麹菌もすべて焼けてしまいました。戦後、製造所を建て直し、新しい黒麹菌を使って泡盛造りの再開は叶うものの、以前の黒麹菌は戦争で失ってしまったため、もう戦前と同じ泡盛は飲めないとされてきました。しかし同蔵が近年になって奇跡を起こします。なんと、戦前に使用されていた黒麹菌が見つかったのです。戦前の1935年に東京大学分子細胞生物学研究所の故・坂口謹一郎博士が沖縄に訪れた際、同蔵から研究のために採取し持ち帰った黒麹菌の標本が、98年に東京大学で同人の生前の持ち物から発見され、さらにはその菌が生きていたことが確認されたのです。瑞泉酒造は、早速この「幻の黒麹菌」を持ち帰り、培養。戦前の味の復刻を目指し、醸造方法に細かな工夫を加え、発見された翌年には商品化に成功しました。この貴重な泡盛は現在、「御酒(うさき)」という名で発売されています。戦前の味を皆さんもぜひ一度味わってみてください。
このように伝統や品質にどこまでもこだわり抜く瑞泉酒造は、かの有名な世界遺産、「首里城」に隣接されています。なんと同蔵の敷地内にはタイ国からの依頼で、タイ名誉領事館もあるとのこと。128年もの間首里城に見守られ、原料となるお米を作っているタイ国からもその絶大な信頼を得る瑞泉酒造。ニューヨークで飲める同蔵の泡盛は、辛口でまさに泡盛らしい味を感じる瑞泉白龍(アルコール度数25・9度)、ハイビスカスのように香り華やかな瑞泉紅龍(24度)、古酒らしいまろやかさを楽しむ瑞泉飛龍(30度)の3種類が販売されています。
本日の〆
本文に出てきた奇跡の泡盛、御酒(うさき)。沖縄県外での通常の読み方は「おさけ」で日本酒を指しますが、泡盛大国沖縄では「おさけ=泡盛」のこと。それが方言で訛り「うさき」と呼ばれるようになったとのこと。まさにそのネーミングでも泡盛を代表する「御酒(うさき)」。味にも品質にも自信ありです!
大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。
焼酎&タパス 彩
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