前回は日米の遺言における基礎や相違点について基本的な説明をしましたが、今回は遺書がない場合とある場合について比較してみましょう。
◎遺書がない場合
遺書を残さずに死亡した場合、家族や債権者など利害関係者である申請人の申請により、(ニューヨーク州では)検認後見裁判所(Surrogate’s Court)が、遺産管理人(Administrator)を、遺産管理状(Letters of Administration)をもって任命します。遺産管理人は、州法に基づいて相続人(配偶者及び子などの直系の家族)を特定し、故人名義の財産の所有権を確認し、誰がどの財産を受け取るかについて判断を下します。
従って、よくご質問があるように、「遺書がないから」という理由で財産が政府に没収されるということはないはずです。とはいえ、最終的に遺産は法定相続人に分配されるものの、遺書がない場合は通常、検認裁判所での手続などに遺書がある場合より時間がかかり、特に法定相続人を特定することが難しい場合は、手続が終わるまで長い時間を要します。そのために経費がかかることになり、財産分配を早く確実に執行させることは望めません。また、法定相続人以外への遺贈を望んでいたとしても、遺書に明記されなければ尊重されません。
◎遺書がある場合
遺書がある場合、死後、検認裁判所に遺書を提出し、その有効性を確認してもらいます。これを検認手続(Probate プロベート)といいます。遺書が有効かの判断を下すと、裁判所は、通常遺書で指名されている遺言執行人(Executor)を遺言執行状(Letters Testamentary)をもって任命し、法的な権限を付与します。その後、遺言執行人は付与された権限に基づいて、負債の返済、相続人への遺産の分配など、遺書の条項に沿って遺産管理を行います。
一部の財産は、遺書によらずに故人の生前の指定により分配されます。例えば、生存者財産権付きの共同名義の財産(これは法律上、生き残った共同名義人に権利が帰属します)、受益者の指定がある財産(生命保険、年金プラン、IRA、ITF、POD、TODなどの口座)は、保険会社や銀行の所定の手続はありますが、裁判所の手続を経ずに、指定された受益者のものになります。
このように、財産が自分の選択する人に確実に遺され、相続の執行を円滑かつ速やか、そして確実に確保し、死亡に際しての経費や手続の遅れを最小限にするために、遺書を用意しておくことが勧められます。例えば、現在は米国に駐在しており、ゆくゆくは日本に帰国するつもりでいるが、米国に財産を残す、または日本国籍で日本に住んでいる(米国の非居住者である外国人)が米国に財産があるという方の場合にも、米国に所有する財産の処分のために、遺書を作成しておくのが良いでしょう。ただし、遺産税・相続税については、日米の専門家に必ず相談しましょう。
※上述はあくまでも一般的な説明であり、個々のケースによって手続な どは異なりますので、必ず法律専門家に相談するようお願いします。
滝川玲子(たきかわ・れいこ)
ウインデルズ・マークス・レーン・アンド・ミッテンドルフ法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士。上智大学外国語学部英語学科、同法学部国際関係法学科卒業後渡米、ニューヨーク大学ロースクール法学修士。日米両国の弁護士事務所の他、日本企業での勤務経験もある。総合法律事務所のニューヨークオフィスにおいて、遺書・遺産に関する法律を中心に、日米両国のクライアントをもつ。現在JAAにおいて、2ヵ月に一度の無料法律相談を担当。
rtakikawa@windelsmarx.com
(212) 237-1073