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2015.04.21 COLUMN

しば まさこ現役キュレーターによるアートの小話。“まさこギャラリー” Vol.2 〜源氏物語の浮世絵〜

 「天使過ぎるどころの騒ぎじゃない」とタイトルがつきそうな源氏物語のアイドル、女三宮がとにかくすごい。13歳にして平安の福山雅治こと源氏の正妻に迎え入れられ、ほとんど彼女を見たことがある人がいないにも関わらず、「あどけないけど相当可愛い」のフレーズで有名な存在になってしまう。2次元か! ってかそれ以前だから、コンセプトか!? とまずはそこで突っ込みを入れたいが、それだけで柏木という公達は〝見たことがない相手〟にぞっこんラブしてしまう…。彼に最大級の〝思い込みが素晴らしいで賞〟を授与!
 この悲劇は源氏物語の有名な「若菜上」の巻。源氏は父親の妻(源氏の母ではない)である藤壺を慕い、彼女との間に子どもができ、源氏の父親はそれを我が子だと思い込んでいるのと同時に、源氏も柏木と女三宮の子を我が子と信じていたので、それはそれでかなりのメロドラマ展開。その幕開けを示す有名な女三宮と柏木の出会いの場面は歴代有名浮世絵師の好む題材の一つ。女三宮は政略結婚で源氏が娶るほど位の高い女性なので、御簾の奥のまたさらに奥に暮らし、決して源氏以外の男性に姿を見られてはならない。でもそこは13歳、外で楽しそうに蹴鞠をしている人達がいたので、つい御簾の近くに行ってしまい、綱をつけて飼っている彼女の大事な子猫が大きな猫に追いかけられて慌てて逃げた際、御簾に綱が引っかかって大変! 御簾ぎりぎりにいた女三宮の姿が蹴鞠をしていた柏木に見えてしまい、一目惚れした彼が思慕を愛の確信に変えた瞬間である。これが悲劇の発端であったことからその後「御簾、子猫、オーナーの若い女性」の三拍子揃うと若菜上の場面であると理解するのがお決まりとなっていた。
 ジャパン・ソサエティーギャラリーの展示では、その時代と共に変遷を遂げた女三宮の表現の変化が見られる。天保後期、歌川国貞はこの場面を女三宮が猫と共に恥らうように描いているが、二代目国貞による約20年後のバージョンの女三宮はかなりな肉食女子として描かれており、恥らうどころか、飼い猫に柏木への恋文を持たせて自ら御簾から顔を出し、蹴鞠を手に持っている柏木もびっくりな情景として描いている。御簾は開けてみよ、というのが江戸時代の浮世絵から得られるアドバイスなのかもしれません☆

Utagawa Kunisada II (1823−1880), No. 36, Kashiwagi from the series Lady Murasaki's Genji Cards, 1857. Color woodblock print; 22 1/2 x 16 inches. Courtesy Hiraki Ukiyo-e Foundation.


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ジャパン・ソサエティーギャラリー 6月7日まで開催中
「お江戸猫めぐり:平木浮世絵コレクションを中心に」
www.japansociety.org/page/programs/gallery/life-of-cats
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しば まさこ
ジャパン・ソサエティーのギャラリー勤務。1年の留学に来ただけのはずのNY在住暦は既に14年。オークションハウスなどのアート系&それ以外の仕事を経て、現職では日本美術の普及に関わる様々な活動を行っている。

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