今回は、故人の銀行口座など財産に関わる裁判手続きと、生存中に有効な事前指示の書類・委任状についてお話しします。
日本のご家族から、故人がニューヨークに遺された銀行口座を閉めたいが、銀行から、裁判所からの書類(遺言執行状や遺産管理状のこと)がないとできないと言われたとの問い合わせがよくあります。ニューヨークでは現在遺産が3万ドル以下の金額であれば小額の遺産についてのより簡略な手続ができますが、それ以上であれば通常の手続をします。裁判手続においては、必要書類に相続人の署名をいただく必要があります。日本にご家族がいらっしゃれば、日本で米国式の公証をしていただかなければなりません。
遺書の有無に関わらず、一定の控除額を超える財産については、期限内に連邦・州の遺産税申告書を提出し(連邦・ニューヨーク州は死後9カ月以内、ただし延長がある)、遺産税を納付しなければなりません。2012年米納税者救済法により、連邦遺産税基礎控除の額は500万ドルに固定され、インフレ調整のため15年度は543万ドルです。州遺産税の有無、控除の額は州によって異なります。昨年度の法改正により、従来100万ドルであったニューヨーク州の基礎控除の額は昨年4月から年々引き上げられることになり、今年4月からは312万5000ドルで、19年までに連邦控除に追いつくようになっています。米国籍でない配偶者が一定の金額を超える財産を受け取る場合には、米国籍の配偶者のように無制限の配偶者控除を受けられませんので、遺産税・贈与税について、事前の対策が必要です。
遺書と同時に、生前に必要なリビングウイル(Living Will)、医療に関する代理人を指定する医療委任状(Health Care Proxy)、財務に関する代理人を指定する委任状(Power of Attorney)の作成も検討しましょう。こうした書類が予め適切に作成されていないと、何かあったとき、ご家族やお友達は本人のために事務処理をする後見人(Guardian)を裁判所に指名してもらわなければならない場合があります。この手続きは、高額で時間がかかります。遺書は人が亡くなってから効力を発するものですが、これら事前指示の書類は本人の生存中に有効で、本人が亡くなった時点で指名された代理人の権限は失効します。
ニューヨーク州では、2010年3月に公衆衛生法が改正され、決定能力がないと判断される本人について、医療代理人が指名されていない場合の手続が設定されました。しかし、法律で決められている順序(後見人、配偶者、子ども、両親、兄弟姉妹、親しい友人)に従って、医療機関などがサロゲート(代理人)を決定しなければなりません。従って、医療委任状のもと、事前に自分の意思によって、自分の意思を良く知っている人を医療代理人に指定しておくことが望ましいです。
※上述はあくまでも一般的な説明であり、個々のケースによって手続な どは異なりますので、必ず法律専門家に相談するようお願いします。
滝川玲子(たきかわ・れいこ)
ウインデルズ・マークス・レーン・アンド・ミッテンドルフ法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士。上智大学外国語学部英語学科、同法学部国際関係法学科卒業後渡米、ニューヨーク大学ロースクール法学修士。日米両国の弁護士事務所の他、日本企業での勤務経験もある。総合法律事務所のニューヨークオフィスにおいて、遺書・遺産に関する法律を中心に、日米両国のクライアントをもつ。現在JAAにおいて、2ヵ月に一度の無料法律相談を担当。
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