能を通して平和を祈る 古典と新作、JSで上演
第二次世界大戦終戦70周年を記念して行われている、ジャパン・ソサエティー(JS)特別企画『戦後70周年 戦争を通して語ること』シリーズの下、舞台公演部では同大戦を題材にした作品を紹介してきた。その最終第3弾として14~16日の3日間、古典の能『清経』と新作能『長崎の聖母』の二本仕立ての能プログラムを上演した。
古典と現代の両方を堪能できるこの豪華な舞台を率いたのは、能楽界の重鎮、銕仙会所属の能楽師、清水寛二氏。
新作能『長崎の聖母』は、世界的な免疫学者で文化功労者、かつ能の作家としても知られる故・多田富雄が、長崎の原爆の爆心地、浦上(うらかみ)にある浦上天主堂を舞台にして書きおろしたもので、被爆60周年を迎えた2005年に同天主堂の大聖堂にて初演されたもの。
劇中ではグレゴリオ聖歌が歌われるなど、日本と西洋の古典が融合した新作能ならではの演出。聖フランシスコ・ザビエル教会の女性聖歌隊が聖歌を歌い上げた。
今回の上演は、『長崎の聖母』の海外初演となるだけでなく、5年に一度ニューヨークの国連本部で行われる核兵器不拡散条約会議と時を同じくして上演された。能という日本の伝統芸術に、長崎の被爆体験と平和への祈りを込めて世界へと発信する意義深い上演となった。
一方、世阿弥の代表的な作品のひとつである『清経』は、都で暮らしていた平清経の妻のもとへ夫の入水の悲報が届く場面から始まり、〝戦い―神(仏)による魂の救済を〟というテーマにおいて「長崎の聖母」と対をなすものとして、古典と新作能との差異を米国の人々に伝える役割を担った。
初演を終えた清水氏は「舞台からお客様が目を凝らして真剣に見てくれていることを感じた。これはとても嬉しいこと、来た甲斐があった」また、「能は、伝統芸術でもあるが、現代を表現しているものでもある。伝統を守り伝えながら、現代を訴えるもの。現代を生きる私たちの心にも響くものがあるということを外国の方々にも知っていただきたい」と語った。