変わりゆく食の贅沢の定義
「Quality Meats」、「Quality Italian」、「Smith & Wollensky」などでエグゼグティブ・シェフを兼任するクレイグ・コウケツ氏が取材場所に指定してきたのは、ディレクションを行うレストランの一つ「Park Avenue Summer」だった。
Park Avenue Summerは、ハイパー・シーズナルをコンセプトに、春夏秋冬の4シーズンで、がらりとその様相を変える。内装やメニューだけではなく、店名も変わる。つまりは別の店なのだ。
「レストランですから、基本365日オープンしています。しかし、内装、メニュー、従業員の制服、インテリアやテーマの何もかもを変えるため、2日だけ店をクローズしますが、新しいレストランをたった2日で開けると同じなんです」と苦笑いした。
こうした店舗を経営していく背景には、一つの思いがあるという。
「食における贅沢の意味が変わってきていると感じているんです。昔は高級食材、つまりレアなものや頻繁に食べることができないものが贅沢品でした。けれど今贅沢なのは、旬のものをその土地で新鮮なうちに味わうことです。それは食の価値が原点回帰していることでもあります。」
特に、食やトレンドにうるさいニューヨーカーにその傾向は顕著だ。
「お腹を満たすだけに食べる人がいる一方で、ニューヨークの人々は、素材、料理法、シェフの思い、カスタマーサービスやインテリアなど、総合的に判断し、それがよければ惜しみない賛辞を送ってくれます。非常に目の肥えた方が多いので、ニューヨークで勝負するのは、いつも楽しい。」
洗練されたニューヨーカーたちを飽きさせない秘訣は、自分が楽しむこと、と言い切る。
「自分が毎日食べたいと思うような場所でなくてはね。今はどこも、僕にとって家庭のようなものです。」
それが若きリーダーにとって最高の贅沢なのだ。
シェフのとっておき
「すり鉢」
日本人にとっては、すりこぎと合わせてなじみのあるすり鉢。具材それぞれの特徴や良さを引き出し、均等に混ぜることができるため、ソースを作ったり、ちょっと素材を混ぜておいたりするのに最適だという。ご本人はマーブルのものを使用しているとか。
取材協力:KORIN
取材:山田恵比寿
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