アン・パストナーク氏を新しい館長に選んだブルックリン美術館の人選は素晴らしい。彼女は長年、非営利現代アート団体の雄、クリエイティブ・タイムのディレクターとして公共美術の新境地を切り開き、プロジェクトとしては毎年9月11日に世界貿易センター跡地に力強く輝く2本の光の塔や、元ドミノシュガー工場の巨大な砂糖のスフィンクス像が記憶に新しい。雑誌『ザ・ニューヨーカー』によると、建物の歴史だけでも120年にさかのぼる歴史をもつブルックリン美術館を彼女が今後どのように改革していくのかとても楽しみだ。そして同じ6月5日号の記事にもあるが、実は今、ニューヨークの美術館館長職に就いている女性の活躍が目立つ。ニューミュージアム、クーパー・ヒューイット、ブロンクス美術館、ディア財団など、そしてつい先日までジャパン・ソサエティーギャラリーのディレクターを務めた手塚美和子氏も含め、そうそうたる美術館の館長職に女性がついている。しかし、これを手放しで喜べるかと言うと、一概にそうとも言えない。
ゲリラ・ガールズというフェミニズム活動集団の、メトロポリタン美術館を揶揄する有名な2012年のポスターの内容によると、「モダン美術で展示されている全作家の4%以下が女性アーティストなのに対して、展示されているヌードの実に76%が女性」であり「女がメトロポリタン美術館で展示されようとしたら脱がなきゃいけないのか」というキャッチフレーズが付いている。
女性作家は確かに活動が評価されにくい傾向にある。典型的な例で、リー・クラスナー氏という素晴らしいアーティストは結局ジャクソン・ポロック氏の妻という肩書きで後世に覚えられていることや、アーティストではないにしても、最近性転換をしたケイトリン・ジェンナー氏に対する報道についてのテレビホストのジョン・スチュワート氏の「今まで男性だったブルースは元オリンピック選手であることで評価されていたが、女性になった今はその年齢や美貌についてしか注目されない」というコメントは本質をついている。
それでも、昨今の評価がうなぎのぼりで時代の寵児となったオノ・ヨーコ氏や草間彌生氏のように、素晴らしい芸術家としての活動がやがて日の目をみるような女性が増えることを期待したい。そしてそんな60〜70年代から、より社会的しがらみの強い日本で、男性写真家と混ざって革新的な作品制作を行っていた石内都氏や杉浦邦恵氏のようなかっこいい女性の活躍がもっと注目されることを願う。
しば まさこ
ジャパン・ソサエティーのギャラリー勤務。1年の留学に来ただけのはずのNY在住暦は既に14年。オークションハウスなどのアート系&それ以外の仕事を経て、現職では日本美術の普及に関わる様々な活動を行っている。