大竹彩子(焼酎&タパス 彩) 焼酎ソムリエの「つまみになる話」毎月第4月曜号掲載 第七回 常識を覆し続け、日本一の焼酎になった黒霧島

 毎年夏に発表される前年度の焼酎メーカー売上高ランキング。そこに、ここ2年首位を譲らないどころか独走を始めた焼酎メーカーがあります。宮崎県の霧島酒造(株)です。最新の2014年の結果発表は今月27日前後に予定されいますが、同社の3年連続首位堅持保持を疑う者はもはやいないでしょう。
 1916年の創業で、来年100周年を迎える霧島酒造が2012年にとうとう「いいちこ」の三和酒類(株)を抜き全国1位に躍り出たのには、欠かせない存在がありました。同蔵のエース「黒霧島」。今回はその黒霧島の魅力に迫りたいと思います。
 黒霧島は宮崎と鹿児島の県境に連なる霧島連山の麓、宮崎県都城市の出身。芋焼酎=鹿児島というイメージの長い歴史をも変えつつある同商品の特徴は、黄金千貫(コガネセンガン)というさつまいもを原料に黒麹菌を使って仕込まれていること。黄金千貫は芋焼酎に一番多く使用されているさつまいもの品種で、適度な糖度とデンプンが豊富に含まれていることが焼酎造りに適しているそう。その中でも特に黒霧島は原料の品質を追求することで、芋焼酎の特徴である「芋臭さ」をあえて取り除き、「食事をおいしく食べるための焼酎」として「トロッと、キリッと」というキャッチフレーズとともに98年に発売されました。もともと食中酒である焼酎らしく、あくまで食を引き立てる役でありたいという揺るぎない思いからでした。加えて、黒霧島は舌を洗う効果が期待でき、食事と合わせることで食材そのものの味を常にリフレッシュした舌で楽しむことができるという隠れた才能を持っています。

 そんな黒霧島の品質を支えるもうひとつの主役が「水」です。なんと先代社長である江夏順吉氏が1955年に蔵近くの地面を約100メートル堀削し、40億トンとも言われる豊富な地下水を掘り当てます。そこから採れる適度なミネラルと炭酸ガスを含む貴重なこの水は霧島裂罅水(れっかすい)と呼ばれ、黒霧島だけでなく同蔵で造られるすべての商品に使用され品質を支え続けています。こちらの水は現在では工場に併設された観光施設「霧の蔵ブルワリー」にて一般にも解放され、工場見学の1つの目玉にもなっています。好きなだけ持ち帰れるとのことですので、一度行ってみてはいかがでしょうか。
 さて、芋臭くない芋焼酎として従来の常識を覆した上に、当時食品業界ではタブー色の〝黒〟を全面に押し出したボトルとラベルデザインで社内でも猛反対を受けた黒霧島は、後にその人気から他社がこぞって追随し、黒麹仕込みの芋焼酎が次々と発売されたことで俗に「黒戦争」と呼ばれるブームを引き起こすほどの大人気商品となったわけです。しかし、元々霧島シリーズには黒霧島の発売よりもさらに約60年前から地元宮崎県を中心に愛飲されてきた、白麹仕込みの「霧島」が存在します。トロリとした甘みと後切れの良さが特徴の黒霧島に比べて、なめらかでふくよかな白麹仕込みの「霧島」は、ことし1月に「白霧島」としてリニューアル。第69代横綱白鵬関がCMに起用され「どしっと、ほわんと」という同商品のキャッチフレーズとともに、早速黒霧島に次ぐ人気商品となっています。
 冒頭に紹介した今週発表の売上高ランキングをもって、首位堅持だけでなく、同蔵の功績が大きく寄与し、今回は新たに県別売上高で長年1位だった鹿児島を抜き、とうとう宮崎県が1位になるという噂もあるほど。常識を覆し続け、今や歴史をも覆し始めた霧島がいつか国酒になる日も来るのでは、と思ってしまうのは私だけでしょうか。

大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。

焼酎&タパス 彩
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