滝川玲子弁護士の“遺言や財産について、今から知っておこう。賢く、遺産相続” Vol.7 ニューヨーク州での遺産管理手続の流れ(前編)

 遺産管理は故人の死後、遺書の有無を確認することから始まります。検認裁判所での手続を説明します。

検認裁判所での手続
 Probate(遺言検認手続)はWill(遺書)がある場合の、Administrationは遺書がない場合の、Surrogate Court(検認裁判所)における手続です。検認裁判所に申請書と必要書類を提出し、故人のエステートの代表者となるExecutor(遺言執行者)またはAdministrator(遺産管理人)を正式に指名してもらいます。遺言執行者または遺産管理人が、申請書類の検討後裁判所から発行されるLetters Testamentary(遺言執行状)またはLetters of Administration(遺産管理状)をもって、故人のみの名義であった財産を回収、管理、分配することができます。
 遺産総額が3万ドル以下であれば、簡略なsmall estateの手続で済みますが、それを超える場合は通常の手続になります。ニューヨーク州で故人が死亡当時お住まいだった、または財産が所在した郡の検認裁判所で手続を行います。
 裁判所への申請料は財産の額によって決まります。現在、1万ドル以下の45ドルからはじまって、例えば5〜10万ドルは280、50万ドルを超えると一律1250ドルとなります。加えて、遺言執行状または遺産管理状の証明書の発行には一通6ドルかかります。

遺書がない場合Administrator(遺産管理人)の選定
 遺書があれば遺書の中でExecutor(遺言執行者)が指名されていますので、その人が申請者となりますが、遺書がない場合はAdministrator(遺産管理人)を選定しなければなりません。うち最低一人はニューヨーク州在住で、少なくとも永住権(green card)保持者でなければなりません。

Probate遺言検認手続・Administration Proceeding 遺産管理状手続
 遺書で指名された遺言執行者・選定された遺産管理人が申請者として、必要書類を裁判所に提出します。裁判所への出頭は弁護士事務所が代行できます。必要書類には次が含まれます(注意:このほかにも、裁判所によって、また案件により、種々の宣誓供述書などが求められます)。
●遺言執行状・遺産管理状申請書、
●遺言執行者・遺産管理人として申請していない法定相続人全員が、申請者が任命されることに異議がない旨の書類に、公証人の前で署名する(通称Waiver)、
●死亡証明書の原本、
●裁判所から要求された場合は、Bond(保証証書)、
遺産管理状の場合はそれに加えて、
●財産・負債のリスト(故人の財務状況を良く知る人が宣誓供述書の形で署名)、
●支払った葬儀費用の領収書のコピー、
●ニューヨーク州非居住者の場合、ニューヨーク税務当局に所定の書式を提出して、裁判手続を進めて良い旨の許可を取得する。

Letters Testamentary 遺言執行状・Letters of Administration(遺産管理状)(=Letters)発行
 裁判所が申請書と関連書類を検討し、Bond(保証証書)が要求される場合はその提出をもって、遺言執行状・ 遺産管理状(称 Letters)を発行し、申請者を正式に任命します。発行に要する期間は、案件の複雑さ、裁判所の所在する郡、裁判所の忙しさの程度によります。

※上述はあくまでも一般的な説明であり、個々のケースによって手続な どは異なりますので、必ず法律専門家に相談するようお願いします。

滝川玲子(たきかわ・れいこ)
ウインデルズ・マークス・レーン・アンド・ミッテンドルフ法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士。上智大学外国語学部英語学科、同法学部国際関係法学科卒業後渡米、ニューヨーク大学ロースクール法学修士。日米両国の弁護士事務所の他、日本企業での勤務経験もある。総合法律事務所のニューヨークオフィスにおいて、遺書・遺産に関する法律を中心に、日米両国のクライアントをもつ。現在JAAにおいて、2ヵ月に一度の無料法律相談を担当。
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