ニューヨーク市の公立中学校への進学プロセスは、日本での公立中学校進学はもとより、ニューヨーク郊外や近郊の州に比べてもだいぶ事情が違う。
ニューヨーク市教育局(以下DOE)は、毎年10月からスクールフェアや説明会を開催し、募集要項であるMiddle School Directory を配付する。しかし実際はその1年前から、進学準備は始まっているといってよい。願書に記載されて提出される成績や出欠記録は、4年生時のものだからだ。中学進学を控える家庭にとって、9月の新学期は大事な時期となる。今回は2回に分けて、ニューヨーク市公立中学進学事情の概要とコツを見てみよう。
ニューヨーク市特有の進学システム
ニューヨーク市郊外や隣接する州の学校区制度(School District)では、一般的に学校区内の複数の小学校が、最終的に同じ高校に統合される。そのような地域では始めから優良高校のある学校区に居住することで、人気校の席を大勢の生徒で争う受験戦争は大学まで経験せずにすむ。
一方、ニューヨーク市は、居住者が無条件で進学できるゾーン校が全ての地区にないこと、またそのようなゾーン校の質が必ずしも良くないこと、一定の教育レベルを保つ学校が不足していることなどの理由で、有名校や人気校に願書が集中する。日本のように私立や国立、中高一貫校などの特殊な公立学校ではなく、ごく普通の公立中学への進学でも、生徒たちは複数校にアプライして、それぞれの選抜システムをくぐり抜けることになる。
複雑なプロセスへの知識を早めに得る
10月に配付の始まるMiddle School DirectoryはDOEのウエブサイトでダウンロード可能だが(図1)、それ以前でも年間を通して前年度版がダウンロードできる。それらに早めに目を通すことで、英語での受験用語に親しみ、中学進学プロセスの概要をつかむことができる。
DOEや各学校主催の中学進学の説明会は表向きは5年生の家庭対象だが、興味があれば3年生でも、4年生時でも出席してみよう。初めは何が説明されているか全くわからないかもしれないが、「何がわからないのか」を知ることは大きな収穫になる。
また中学に限らず、DOEのシステムは毎年変更が加えられるので、事前に情報収集をしても、必ず自分の受験年の最新情報を確認することが大事だ。
アドミッション・プロセスとアドミッション・メソッド
公立中学への願書提出(Admission Process)は大きく分けて三通りある。
ひとつは一枚のアプリケーションフォームに志望順に複数校を記入して一括で申し込む学校群。ふつためは、それ以外の学校で、学校に直接アプライするSchool-Based Applicationを行う学校。そして抽選で入学を決めるチャータースクールへの申し込みだ。願書提出時に間に合わない新設校がある場合は、別口での申し込みになる。
7年生がエントリーポイントである、 シティカレッジ管轄下で全米でもトップクラスのハンター高校への受験も、公立に準ずる中高一貫校への進学の一環といえる。(表1)
基本的に抽選で入学者を決めるチャータースクール意外はいずれのアドミッション・プロセスでも、各校、それぞれ違うアドミッション・メソッドを採用している 。アプリケーションに記載された事項のみで選抜を行う学校、それプラス試験、面接、オーディション、作品提出を求める学校、学校への興味を示した生徒のみを選考対象にする学校、志望した生徒をブラインドで抽選して選抜する学校などさまざまだ。
願書を出しても、一定の基準をクリアしていないと、試験や面接に呼ばない学校もある。多岐にわたる各学校の受け入れ基準をしっかり把握するためにも、学校見学や説明会への参加は重要だ。
学校見学予約はウエブサイトとにらめっこ?
近年学校見学はほとんどがインターネットでのオンライン予約だ。
学校見学は在籍する小学校への日時指定がある場合は、小学校のガイダンスカウンセラーから連絡がくる。しかし、その日に行けずに自分で予約をする場合、日時指定のない中学の見学、School-Based Applicationを行う学校、またプライベートの小学校から公立中学へアプライする場合は、自分達で予約をすることになる。
学校のウエブサイトでのオンライン予約は、いつ開始となるか事前には告知されない。9月にはいったら興味のある学校のウエブサイトをこまめにチェックするべきだ。人気校は予約が始まると、数時間でスロットがいっぱいになり、見学できない事態も起こる。
10月に配付されるスクールディレクトリで、初めて特定の学校に興味をもっても、その時点で、すでに学校見学の予約が締め切られているというケースも多々ある。5年生の新学期開始前には興味のある学校をリストアップし、人気校である場合は特に、新学期開始の時点で学校見学の予約に気を配るようにしたい。(次回11月号に続く)(文=河原その子)
表1)
公立中学校 アドミッション・プロセス
①Middle School Admission のアプリケーションフォームで申し込む
各家庭でアプライ可能な全ての学校がリストされているアプリケーションフォームに、希望優先順位(ランキング)を記入して提出する。公立小学在学生は、学校のガイダンスカウンセラーを通して申し込む。
②School Based Application
上記のMiddle School Admission リストに参加していない中学校への願書提出。各校独自のプロセスに沿って、直接申し込む。
③チャータースクール
全て抽選。各学校へ直接申し込む。
④Hunter Collage High School
5年生のコモンコアテストスコアをもとに、試験に招待された生徒のみ6Gでアプライできる。
情報は学校のウエブサイトで。