新学期が始まったと同時に、翌年2016年9月に入学を目指す家庭では、この秋から冬にかけ、学校選びの活動が始まる。小学校入学は保護者にとっても始めてのことが多く、情報収集に余念がないだろう。
ニューヨーク市のように人口の多い場所は学校数も多く、入学願書を出せる学校の選択が広がり、保護者は複数の通学可能な学校を調べて志望校を絞ることになる。学校を調べる方法としては、オープンハウスと呼ばれる学校説明会や、スクールツアーと呼ばれる学校見学など、直接学校側から情報を得る方法と、教育局や学校のウェブサイトなどから間接的に情報を得る方法がある。今回は、公立小学校の学校見学、オープンハウスの活用術を紹介してみる。
なぜ学校見学・ツアーが大事か
公立小学校は、例外を除き、 自分のゾーン校に優先的に入学できる。これは入学を保障するものではなく、ゾーン校の定員数を入学希望者が上回った場合は (Over crowded)、近隣の学校を割当られることもある。
同様に、ゾーン校へ行かねばならないという決まりもなく、ディストリクト内の居住者が通学可能なディストリクトオープン校、ニューヨーク市在住者が通学可能なシティワイド校に加え、チャータースクール、ギフテッド&タレンテッドプログラムなど、個性的で選択肢は多い。
このように幾つかの選択を考える場合、校長の考え方、スタッフや保護者の様子、建物、在校生の様子を知ることができる学校見学やツアーが大事になる。
説明会とツアーの違い
学校説明会は、 保護者に対して基本的に校長が教育方針や学校の特色を説明する。夜間に行われることが多く授業の見学はない。
ツアーは、授業の様子や校舎内の見学で、平日の午前中1時間半程が普通だ。学校の代表が概要を紹介した後(校長とは限らない)、校内を見学する。ツアーを先導するのは在校生の保護者だ。平日でも仕事前に父母で参加する家庭も多い。
ベストなのは、ツアーと説明会両方に参加することだ。校長の考え方は学校のありかたに大きく影響する。説明会は直接校長の人柄や考え方を見極めるチャンスだ。ツアーでは生徒や保護者の観点から学校の様子を知ることができる。
学校説明会、ツアーへの申し込み
予定は各学校ウェブサイトで発表されるが、発表時期は分からない。興味のある学校のウェブサイトに注意を払っておく。近年はインターネットでの受付が多く、定員に達した場合、スロットが閉ざされる 。特に参加者が集中する人気校の場合は気をつけよう。またその場合はペアレントコーディネーター(後述)に連絡しよう。
外国語の壁
現在の学校教育は、アメリカ人保護者でも混乱することが多い。違う文化と教育環境で育った外国人にはなおさらといえよう。教育局では複数言語で情報を発進しているが、日本語は含まれていない。日本人保護者にとり、時間をかけて読むことのできる情報源と違い、 説明会やツアーでは話がその場で過ぎてゆき、大事なことを聞き逃してしまう可能性もある。少しでも説明会やツアーでの理解を深めるためには、 事前に教育局のウェブサイトなどで公立小学校の就学、プログラムについて目を通しておこう。英語に問題が無くても、学校や教育特有の用語を知ることができる。
質問は準備して行く
ツアーや説明会は、質問の答えを得るつもりで臨もう。事前に質問事項を箇条書きにまとめておく。自分が質問しなくても、他の保護者が同じ質問をする場合もある。答えが得られた事項をチェックし、全ての質問の答えが確実に得られるようにする。
ニューヨークの学校では英語を母国語としない保護者がいることは想定済みだ。会話に自身がなくても積極的に質問しよう。不慣れな英語の質問に対して変な態度をとる学校があれば、学校側に問題があるともいえる。
日本の公立小学校との違いをおさえておく
コアサブジェクトといわれる国、数、理、社の主要四教科以外の、体育、音楽、アートは学校ごとに授業の数が違い、一年の前半を音楽、後半をアートと通年授業がない場合もある。これらはエレクティブクラスと呼ばれ、他にもコンピュータ、外国語、チェス、ダンス、演劇など各学校で様々な工夫がなされている。音楽は楽譜の読み方を教えない学校もあれば、全員が弦楽器や鍵盤楽器を学ぶ学校もある。入学後に当然あると思っていた授業がなくてがっかりしないように、事前に把握しておこう。
トラディッショナル教育とプログレッシブ教育
日本人にも馴染みのある伝統的教育法と対峙する革新的教育を取り入れる公立学校もある。プログレッシブな学校の場合は、テストを重視しない、もしくはボイコットを勧める、宿題を出さないなど、はっきりした意志を持つ学校もある。そのような教育方針を具体的に質問し、目にできるのも説明会やツアーだ。
能力別クラスの実施
アメリカは歴史的に、能力別に生徒を教えることが普通に行われている。個人の能力に合わせた学習が、最終的には生徒のためになるという考えが根本にあるためだ。アメリカ人保護者からは、学習についてゆけない、逆に学習が進んでいる子どもにはどう対応するのか?という質問もよく出る。対処法は学校によって様々だが、そこまではウェブサイトには書かれていない。このような質問がなされるのも学校説明会の場だ。
ペアレントコーディネーター
日本では馴染みのない役職だが、保護者と学校を繋ぐ窓口であり就学関連の業務を行う。説明会やツアーの問い合わせは、学校のホームページにメールアドレスが記載されているので、ペアレントコーディネーターに連絡をとる。電話よりメールのほうが確実であり、記録にも残る。
多くの説明会に参加することで、学校を比較することができる。興味のある学校には積極的に出掛けよう。また、子連れ不可と明記されてなくても、説明に集中するために、シッターなどを利用して保護者のみでの参加を検討したい。(文=河原その子)