Makikoメソッド

 食事、思考、身体の動きを正すことにより、心身一如の姿勢を目指すMakikoメソッド。創始者の岡牧子は、日本人初のGAPS(腸と心の症候群)食事療法士として、自閉症の子どもの回復支援にもあたっている。食に重きを置くのは、私たちのアイデンティティの素となる、感性と情緒の発達に大きく影響するからだ。一体、どういうことだろう。岡に、聞いてみた。(インタビュー・文・写真:阿部里果)

自分らしい人生を歩むための食事

 以前、アドラー心理学をもとにした「嫌われる勇気」という本が日本でベストセラーになった。人からの承認を求めて悩む人達が、自分以外にも沢山いることに驚いた。自分が正しくて相手が間違っていると考えたり、勝ち負けを気にしている限り、幸せになれないとも書かれている。そこから抜け出すには、自分のアイデンティティを追究することが大切ではなかろうか。自分自身の興味を明らかにし、人間は十人十色だと理解すれば、比較や競争は無意味で、誰からの承認も必要ないと心底思えるのだ。それには、幼い頃から繊細な感性と情緒を育み、自分が何に対してどう感じるか、しっかり把握しながら生きる必要がある。その感性と情緒の発達に、食が大いに関係すると岡は言う。

母の味がアイデンティティを育む

 「お母さんの味が、皆さんのアイデンティティを作る、一つの根本的な物だと思うのよ。私たちは何かを食べる時、味覚を含め、五感をフルに使うよね。幼い頃に、家庭の味を通して多様で繊細な刺激を経験すると、物事を敏感に感じる感性が磨かれ、感じたものを消化した時に生まれる様々な情緒を発見するのよ。それによって、食べ物以外のいろんな刺激に対しても、自分が何を感じているのか、理解できるようになるのよね」と岡は話す。確かに、手間暇かけて作られたでき立ての料理を食べると、厚みのある味に想像力がかき立てられ、感じたことを生き生きと表現したくなる。その感じ方と情緒は、自分だけのものだ。フランスでは、ワイン醸造学者のジャック・ピュイゼ氏が、食によって子ども達の五感を刺激し、自分の感覚を知る力を養うピュイゼ・メソッドを開発した。日本の食育にも取り入れられている。
 化学調味料や砂糖がたっぷり入った料理や加工食品ばかり食べていては、自分だけのアイデンティティを確立するのは難しい。「辛い、甘い、酸っぱいという一つの味だけが際立った、画一的な味になっちゃうよね。化学調味料の多くは石油からできているから、においや味を表面的に飾り付けても、中身はほとんど同じ。現代社会は、際立ったものが目立ち、その間の繊細なもの、優しいものが欠落していると感じるけど、それは食べ物の味がそうなっちゃったからだと思うのよ」と岡は言う。自分なりの判断ができず、医者だったらエリート、高学歴だったら偉いなどの画一的な基準に振り回されるのも、これが一つの原因かもしれない。現にMakikoメソッドで食事を整え、感性と情緒を育んだ私は、社会一般の基準がどうでもよくなり、自分の興味の追究に専念できるようになった。

良質の食事でストレスに強くなる


 自分のアイデンティティを追究したら、今度はそれに従って自分らしく生きることが幸せにつながるが、簡単なことではない。人と違うことをすれば、批判されるリスクも出てくるだろう。失敗も全て自分の責任だ。そういうストレスに負けず、転んでも起き上がれる体力と精神力を養うことが大切だ。ここでも、栄養満点の家庭料理が鍵となる。
 「体力と精神力があれば、ストレスを経験として消化し、そこから学ぶことができるよね。それには神経や脳も含めた、身体全体の栄養バランスを整えることが大切なのよ。このバランスが悪いと、自律神経が反応して身体が緊張し、心身が疲れてしまう。すると、自己嫌悪にはまったり、人の批判を始めちゃったりするのよ。重要なのは、良質の動物性たんぱく質と脂質が豊富な食事。新鮮なエネルギーたっぷりの食材を買って、作ったらすぐに食べる。GAPS食事療法なら、骨を煮込んだボーン・ブロスを飲む。時間が経つと、栄養素はどんどん減っちゃうからね。デパ地下のお惣菜なんか全然ダメ」。
 「腹が減っては戦はできぬって言うでしょう? 毎日、自分の興味の追究という冒険に挑んでいくのに、お腹が空いていたらダメだよね。脳が空腹サインを出すのは、栄養バランスが悪いってこと。食べる量は関係ないのよ」
 温かい家庭で、家族皆で食卓を囲むことも、ストレスに強くなる秘訣だ。「外で失敗して、傷ついて帰って来ても、皆で食事をしながらいろいろ話せば、癒されて次の日には大丈夫になるのよ。家庭をヒーリング・ルームにしないとね」と岡は話す。私の主人も、会社で大変な思いをしても、家に帰って私の手作りご飯を食べれば、「これで良い、大丈夫」と思えるそうだ。
 最近は、食の質よりも、節約や手間を省くことを優先する人も多いと感じるが、それは家族から自分らしく生きる機会を奪うことになる。食事が家族の人生を左右するという意識を持つことが大切だ。「時間と労力とお金をケチっちゃダメ! それをケチるというのは、エネルギーを注ぎたくないということでしょ? それじゃあ愛は伝わらないよ。家族に愛を出し惜しみしちゃいけない! 例えば出汁の素を本物の鰹節に変えるとか、できることから始める勇気を持ちましょう。その勇気が、深刻化する心身の健康問題を解決する第一歩だと思うよ」。
 自信を持って自分らしく生きるには、まず食事を変えることが大切なのだ。特別な知識や技能は必要ない。できることから今すぐ始めてはいかがだろう。
※Makikoメソッドの詳細はウェブサイト(www.makikomethodnyc.com)を参照のこと。