「ニューヨークを保存する会」の代表を務めるブロガーのジェレミア・モスさんの主張は、こうだ。「ニューヨークを代表する名物の店がどんどん閉店し、ニューヨークの魂は失われつつある」。彼は、制作した5分ほどのビデオのなかで、アイコニックな店とニューヨークらしさの消滅を嘆く。ニューヨークは、ニューヨークではなくなりつつあるのだろうか。
モスさんが例として挙げたのは、ハーレムのレノックス・ラウンジ、タイムズスクエアのロキシー・デリカテッセン、バワリーにあったCBGB、イーストビレッジのマース・バーなどだ。彼の好みなのか、グリニッジビレッジのブリーカー通りにあった小さな店にも触れている。彼は、「これらの雰囲気ある店は高い家賃のために立ち退きを迫られて消えてしまった。代わりに大手銀行が入ったり、新しい高級コンドミニアムが建ったり、これでは風情もあったものじゃない」と、街の未来を心配する。
ニューヨークは、移りゆく街だ。人も企業も出入りが激しく、どんどん変化していく。ハード面(通りにある店や建物など)がこれだけ変わっていくのに、ソフト面(ニューヨークらしさ、魂)はこれだけ変わらないことが稀有な街でもある。もしもモスさんが嘆くように、店が変わることでニューヨークの魂が失われていくなら、街を形成するのはハード面ということになる。この街がこの街らしく居続けられるのは、ハード面だけなのだろうか。では、らしさや魂というのはなんなのか、なぜニューヨークが“こんなにもニューヨーク“で、この街が人を惹きつけてやまないのか。その答えは、ニューヨークという街を選び、はたまたなぜか縁があって、この街で暮らすことになった各ニューヨーカーがそれぞれの答えを導き出せばよいのだが、愛したら愛した分だけ、ちゃんとお返しをくれるのがニューヨークという街であることは確かだ。