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キヌアと秘境の温泉
ペルーを旅したときの話。
インカ文明の古都クスコから山岳の奥深くへ向う登山列車。アマゾン川の源流であるビルバンバ川に沿ってガタンガタンと揺られていくとマチュピチュ遺跡へたどり着く。いや、正確にいえば遺跡のふもとに到着する。そこにあるのはひっそりと渓谷に佇む小さな町。そしてその町から川の上流へ少し行ったところには温泉があるという。
秘境の温泉とあれば行かぬ訳にはいかない。久しぶりの湯けむりを求めて、その夜渓流のせせらぐ小径を辿りながら温泉へ行ってみた。温泉自体は日本と違い屋外プールといった方が当たっている感じではあったが、それでも南半球の満天の星を眺めながらの露天温泉は格別なもの。砂地の底から湧き出すほんのり暖かい湯にしばし身体を預けた。
帰りがけに少し湯冷めしてきたので、暖かい食べ物を探すことにした。観光客相手の店を避け裏通りに入ると、一軒の食堂を見つけた。店内は地元の人々で満席。キッチンを覗いてみると夫婦と10歳くらいの女の子で切り盛りしている。忙しそうなので待っている間お手伝いしようと、そのままキッチンへ入って行った。
「オーラ」。なかへ入ると三人はキョトンとしたが、「日本人のシェフです、お手伝いします!」と挨拶するとニコリと笑顔で答えてくれた。大きな鍋にスープがかかっていて、チキンのいい匂いがしてくる。もっぱらこのスープを盛り付ける係りとなった。この店は日替わりのセットメニューひとつだけのようだ。こういう店は期待していい。しばらくしてオーダーも落ち着いたので空いている席についた。
セニョールが運んできた熱々のスープにはジャガイモやカボチャが入っている。どちらもペルー原産の野菜。さらによく見ると小さな「の」の形をした穀物がたくさん浮かんでいてプチプチと美味しい。なんだろう? 尋ねてみると「これはキヌアだよ」と答えてくれた。
「穀物の母」と言い伝えられるキヌアはNASAの宇宙食にも選ばれ「21世紀の主食」と称される。必須アミノ酸やそのほかの栄養をバランスよく含むスーパーグレインである。茹でると芽の部分がチョロリと出てくるので「の」のような見た目になる。「ソパ・デ・キヌア」はインカの昔から伝わる家庭料理。暖かさがじんわりと沁みてくる。
作り方は骨つき鶏を煮込んでスープをとり、キヌア、ジャガイモ、人参などの好きな野菜を加え火が通るまで20分ほど煮込む。冷えた体もポカポカしてきた。メイン、デザートもしっかり平らげ、すっかりこの裏通り食堂が気に入ってしまった。
「マチュピチュなら歩いて登れるよ」帰りがけセニョールが言った。急勾配らしいが一時間ほどで行けるらしい。ワクワクしてきた。明日は日の出よりもひと足先に出発するとしよう。そしてアンデスに昇る朝陽を、天空の都市で待つことにしよう。
浅沼(Jay)秀二
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
ブログ:www.ameblo.jp/nattoya
メール:nattoya@gmail.com
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