滝川玲子弁護士の“遺言や財産について、今から知っておこう。賢く、遺産相続” Vol.11最終回 遺言や財産についての総まとめ

 これまでの総まとめとして、遺書や遺産管理、遺産税について、よく聞かれる質問を書き出しました。理解を深めていただくため、過去の説明を一緒にご参照下さい。

●遺書は何歳頃になったら準備すべきなのか。
 高齢になってからでなく、今から準備すべきです。遺書は法的な書類であり、署名する能力が必要です。既婚者のみならず独身や独居の人、また事業を営む人は特に(生きている間に必要な)健康上・財政上の事前指示の書類と、(死後財産分与のための)遺書またはそれに代わるリビングトラストの準備が必要でしょう。

●遺書はどのくらいの頻度で改定したら良いのか。
 決まりはありませんが、当初の遺言執行者が引越したり亡くなったりでできなくなる、受益者を変えたい、財産構成が大きく変化したなど、状況に変化があれば、その都度遺書は改定すべきです。特に、日本に帰国される場合、現在ある遺書などを必ず見直して下さい。

●遺書を遺さずに死亡した場合は、財産は州に没収されるのか。
 無遺言intestacyの法律によって、財産は相続人に分与されます。相続人が確定するまで時間がかかると、郡の遺産管理官の介入があったり、一時的に州に預りになる場合はあるかもしれません。

●遺書の代わりにトラストを作るよう勧められた。どのような場合にトラストを作るべきなのか。
 遺言に異議が唱えられる可能性がある、家族が外国にいたり所在が不明または高齢で裁判手続書類の対応(署名公証)が困難なので遺書の検認手続を避けたい、または、他州に不動産があるなどで補助手続を避けたいなどの場合に、トラストが便宜です。

●「遺言執行人」は何をするのか、選択のアドバイスがあれば。
 遺言執行人は、遺言に基づき故人の遺志を執行して遺産を管理分与し、受益者に対する責任を果たします。各種税金の申告納付は大事な仕事です。家族がいない場合は、信頼できる友人などが良いでしょう。

●自分は日本国籍で夫は米国籍。夫が亡くなり遺書がない場合、一般的にどのようなことが起こりえるか。
 一定の額(遺産税控除)を超えた財産がある場合、財産を受け取る配偶者が米国籍か否かで税法上違いがあります。財産を受け取る配偶者が米国籍の場合は、遺産税につきunlimited marital deduction無制限の配偶者控除があるからです。財産分与に関しては、生存配偶者と子どもがいれば、無遺言の法律に従って、ニューヨーク州では、まず一定額の現金が配偶者に、残りの半分が配偶者、残り半分が子どもに等分に分配されます。

●配偶者の間でも、医療委任状 Health Care Proxyや委任状 Power of Attorneyが必要なのか。
 プライバシー保護の法律上、こうした書類によって正式な代理人Agentに指名されていないと、たとえ配偶者でも、個人情報が提供されず、自分自身で処理できなくなった人のための健康や財政の管理が滞ります。

言葉の混乱がないよう、覚えておくべきこと
Will(Last Will and Testament)は遺書、Living Willはリビングウイル(回復不能の脳死状態に陥った場合人工的な生命維持措置を望まない)、Living Trustは生前信託。

※財産の内容や額、家族構成、移民法上のステータスなど、全ての人について状況が異なるので、ほかの人と全く同じエステートプランにはなりません。ほかの人と比較して混乱されないようお気をつけください。

滝川玲子(たきかわ・れいこ)
ウインデルズ・マークス・レーン・アンド・ミッテンドルフ法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士。上智大学外国語学部英語学科、同法学部国際関係法学科卒業後渡米、ニューヨーク大学ロースクール法学修士。日米両国の弁護士事務所の他、日本企業での勤務経験もある。総合法律事務所のニューヨークオフィスにおいて、遺書・遺産に関する法律を中心に、日米両国のクライアントをもつ。現在JAAにおいて、2ヵ月に一度の無料法律相談を担当。
rtakikawa@windelsmarx.com
(212) 237-1073