ファッションライターあやこんぶの“おしゃクロ!” Vol.15 宝石が埋め込まれた芸術品のような自転車 ブルックリンを拠点に再始動した完全ハンドメイドのアスカリ・バイシクルズ

King Ascari ©Patrick Farrel

 日本でもこだわりのある人々の間で話題になったハイエンド自転車ブランド、アスカリ・バイシクルズが昨年ニューヨークに拠点を移し、注目を浴びています。その値段は1台1万2000ドルから2万ドルと、それは自転車というよりむしろ車の価格に近いもの。最高のモダンな素材を用い、伝統的な自転車作りのメソッドを用いた機能美が見てとれます。買い手の希望をヒアリングしたうえでの、フルオーダー完全ハンドメイド。細部に目を配れば、見事な装飾が施されたブラス製のパーツ、レザーを巻きつけたハンドルなど、そのアンティーク調の芸術品のような佇まいは街乗りするのがもったいないほど。5番街にあるラルフ・ローレンのフラッグシップストアにも堂々ディスプレイされていますが、ラルフ・ローレン氏本人からの受注も受け、愛用されているというのも納得してしまいます。
 ブラジル南部サン・マルコスで育ったというアスカリ氏、「古いものを大切にする小さな街で私のアイデンティティが形成されました」。デザインのインスピレーションにはアール・ヌーボーの家具、ザ・バンドなどの60〜70年代のロック音楽など。レザーを巻いた象徴的ディテールは、ワイナリーのカゴ職人であった祖父のもの作りをアイデアに。

©Anthony Bareno


 彼が自転車作りに目覚めたのは、なんと9歳のこと。「自宅の地下から見つけたボロボロの自転車の古くも美しいデザインと機能に目を打たれました。偶然にも目の前が街に一軒しかない自転車屋だったので、パーツを修理し色を塗り替えて乗っていました。それはすぐに譲ってくれという人が現れました。」その後、鉄工場や木工工場で製造業に携わりながら青春時代を過ごした後、偶然にも大手モデル事務所の目に止まります。トップモデルとして世界を飛び回る生活を経たあと、彼は情熱の源であった原点に立ち返り、自身の手を使ったものづくりに目を向けました。オレゴン州にある自転車の専門学校として名高いUnited Bicycle Instituteに入り、改めて自転車のフレームビルディングを学ぶことに。電気やガスなどを使用しない昔ながらの利器だからこそ、改めてその存在を考え直して作られた自転車は、アートの粋に。「私にとってアートとは自分の中で留めておけない何かを吐き出すような作業」というように、ハンドメイドの美しさをこれでもかと見せてくれています。

Ascari Bicycles ascaribicycles.com


フリー・ジャーナリスト
Aya Komboo
www.ayakomboo.com
日本では数々の出版社で経験を積み、フリーランスへ転身。2006年よりロサンゼルスへ渡米し、現在はニューヨークを拠点にファッション/カルチャー誌などで活躍している。