今年1月、ニューヨーク州統一コモンコアテスト(以下コモンコアテスト)の変更プランを州の教育局長メリーエレン・エリア氏が法案作成のための公聴会で発表した。その内容は「覚書き」として各公立学校の校長あてに提出された。
コモンコアテストは毎年4月、公立学校在籍生徒の3年生から8年生に実施される、ELA (国語)とMATH(数学)テストだ。
テストの是非をめぐり、昨年はボイコット運動が過熱し、州全体で20%以上の生徒がテストをOpt-outする事態となり、盛り上がるテスト批判に応えての対応を打ち出した形である。
3つの変更プラン
覚書き「Changes for 2016 Grades 3-8 ELA and Math Tests」によると大きな変更案として以下の3点を挙げている。
(1)テスト問題の作成に現場教師が参加する。
(2)問題数を減らす。
(3)テストの制限時間を排除する。
最終的にどのような形になるのかは、正式発表されておらず、覚書きの通達にも、各校長に現時点の特別な行動をとる必要はなしとされている。4月から始まるコモンコアテストだが、2月後半でも家庭への特別な通達はない。
問題作成とテスト形式
ニューヨーク州教育局は、これまでテスト問題作成や採点を請け負ってきたPearsonとの契約終了をもち、新たに別会社Questar Assessment Inc.と契約を結んだ。これにともない、問題作成に、現場の教師の参加や意見を取り入れ、テスト印刷前の校了にも、教師のチェックを求めるという。
ただし、今年4月の問題と出題形式は、トランジッション期間として、従来通りPearsonのものを使用する。Questar Assessment Inc. による新しいテストは、 来年、もしくは再来年2018年から実施される予定だ。
問題数の減少
ELAとMATHともに、選択問題(Multiple-choice questions)と文章回答問題(Constructed-responses questions)で構成されている。ELAは短文回答(Short-responses)と小論文(long-responses)があり、MATHは答えに至る考え方を段階的に説明する、俗にいう “show your work” がある。
英語の選択問題は全て長文解読であるが、一文についての選択問題数を減らし、選択問題の長文も数も1〜2文減る。
テストの時間制限排除
これまでは1回60分から90分の制限時間内で回答することになっていたが、これを無くし、「生徒が積極的に回答をしようとしている限り(“as long as students are productively working” )時間制限を設けず、最後まで回答させるという方針だ。
時間制限を排除する理由として、教育局は「自分のペースで問題を解くことで、生徒が理解していることを表明する機会を得ることができる」としている。
制限時間内で回答することも含めて生徒の実力であるという考え方に対して、コモンコアテスト本来の目的が、入試における生徒のふるい分けではなく、 どれだけ学習が身についているかを図るのであれば、時間というファクターは関係がないという考えだ。加えて、テストに対して緊張感や不安感を持つ生徒の救済案ともしている。
しかし、具体的にどのように、いつテストを終える判断をするのかのガイドラインは出ていない。生徒がproductivelyに回答しているかどうかの判断を誰がするのか、生徒の自己申告なのか、監視教員の声かけなのか、具体案が待たれる。
テストのコンピュータ化を目指す
公聴会の覚書きには記されていないが、エリア教育局長は、同時にテストのコンピュータ化を推進する。
全生徒へのコンピュータ末端の用意や、機器類の故障、タイピング技術の差など、問題は山積みだが、コンピュータ化で、テスト結果の早期集積、採点を可能にし、教師や生徒の利益につなげるというのが目的だ。
従来は4月のテスト結果の発表は8月で、得点と4段階のレベル分けのみだった。どの問題で点数がとれなかったかなどは分からず、学習の弱点を知り今後に生かすことが難しかった。ゆえに、行政の資料集めと、学校評価には使われるが、生徒にとっては「やりっぱなし」状態であることが、テスト批判の大きな争点でもあった。
テスト日程
学習の達成度を分析する必要性は認めても、そのために生徒が週3日2週間、計6日間、テストの緊張にさらされることの是非も問われている。
1日に1時間のテストは、生徒の1日の負担を軽くする反面、テストの緊張は2週間続く。テスト日程の短縮は、これまでも言及されてきたが、今回の変更プランには含まれていない。
変化にむけての準備
前回のテスト改定時は、学校現場に大きな混乱が起こった。読解力と理論的な思考、書く力を重視するコモンコアの導入で、 教科によっては教え方が変更になり、テスト内容も難しくなった。算数の教え方が変わり、その新指導法に沿った問題が出るといわれても、前例がないため教材もテストの例題も不足だった。
学校により「与えられた準備期間が足りず、何をして良いかわかない」と公言する学校、「リサーチと準備はできているので、心配する必要はない」という学校に対応が分かれ、同じ状態でも、通学している学校により、生徒と保護者の体験と、得られる情報に大きな差がでた。
詳細も時期も公式発表はまだ無いが、いずれテスト変更は起こる。元になるコモンコアに変化はないので前回と状況は違うが、来るべき変化に対して、前回の混乱から 保護者が学べることもあるだろう。日本人家庭は学区を超えて、横の繋がりをもつ機会も多い。他校の保護者との情報交換は、このような場面でも有効といえる。(文=河原その子)
ニューヨーク州教育局コモンコアテスト関連サイト
●コモンコア・ステートスタンダード・イニシアティブ www.corestandards.org
●Engage NY(NY州コモンコア説明) www.engageny.org
●NY市教育局コモンコアライブラリー schools.nyc.gov/Academics/CommonCoreLibrary
●2015年NY州テスト サンプル問題と解説 www.engageny.org/resource/new-york-state-common-core-sample-questions
●覚書きPDF www.p12.nysed.gov/assessment/ei/2016/changes2016grades3-8ela-math-tests.pdf