各地で開発が進むニューヨーク。その狭間でアンダーグラウンドシーンがどれだけカオスでエネルギーにあふれていたか、それはまるでこの地で長年活動するアーティストの表現の原動力のよう。1973年にマンハッタンに移り住み、現在ブッシュウィックを拠点に活躍するイラストレーター、リチャード・ヘインズさんは「ニューヨークのグラマーなカルチャーに引き寄せられるようにやって来ましたが、当時の街は本当にクレイジーでした。かつてのマンハッタンにあった強烈なエネルギーと同じようなものが今はブッシュウィックにあると感じます」と、言います。
特にウィリアムズバーグでは倉庫跡地に集中してあった伝説のDIY(Do It Yourself)系と呼ばれる、手作り感あふれるアンダーグラウンドなライブハウスは、ここ5年間でその全てが閉鎖に追い込まれました。その代表的なものとして挙げられる、285ケントやマーケット・ホテル、サイレント・バーンの仕掛人としてインディ音楽好きから厚い支持を受ける、トッド・Pことトッド・パトリックが現在目を付けているのは、ブッシュウィックのよう。かつてリッジウッドにあったサイレント・バーンはブッシュウィックにオープンしましたが、つい先日5年間閉鎖されていたブッシュウィックのライブハウス、マーケット・ホテルが復活オープンを遂げたところ。それを祝福するかのような、豪華なラインナップのライブでは軒並みチケットも完売。イブ・サンローランのクリエイティブディレクター、エディ・スリマンさえも虜にしたブルックリン発のインディー・バンド、DIIVは流れるように軽やかなギターサウンドが幻想的で、3デイズライブを務める人気ぶり。その1つに足を運んでみましたが、何がイイってその荒削り感。高架を走るJトレインが見える窓をあえて残した作りの会場では、その景色を横目にライブが繰り広げられました。爆音だから、電車の音なんて気にならないと言わんばかりにオーディエンスは盛り上がり、今のブッシュウィックのエッジーな部分を感じられます。
ウィリアムズバーグにかつてあり、エフェクターメーカー、レコーディングスタジオ、そしてアートスペース、ライブハウスであった伝説のDIY空間、デス・バイ・オーディオが消えたのは、2014年のこと。最後の砦であったハコが消えた際は、「RIP DIY(DIYシーンよさらば)」と多くの音楽ファンが嘆いたこと。そのドキュメンタリー「Goodnight Brooklyn」は、3月11日から行われる、オースティンを代表する一大音楽祭SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)で発表されます。ニューヨークでは4月27日~5月1日のインディペンデント映画祭にて公開。今あるブルックリン人気の背後に存在した、DIYアーティストたちのユートピア空間を垣間見ることができます。
Market Hotel www.markethotel.org SXSW www.sxsw.com
New York Independent Film Festival www.nycindieff.com
フリー・ジャーナリスト
Aya Komboo
www.ayakomboo.com
日本では数々の出版社で経験を積み、フリーランスへ転身。2006年よりロサンゼルスへ渡米し、現在はニューヨークを拠点にファッション/カルチャー誌などで活躍している。