アメリカの学校の校則 The School Discipline Code

 アメリカは連邦国家であるため、学校のシステムや、教育に関する事項は各州法が独自に定め、生徒の違反行為や罰則も州ごとに違う。
 これら州法に基づき、校則も各公立学校区(市や、スクールディストリクト)で定められ、毎年見直しや更新が行われて、年度初めに保護者に配布される。日本の感覚とは違うことも多く、このハンドブックにきちんと目を通しておくことが大切だ。

ニューヨーク市教育局発行の「Citywide Behavioral Expectations」

ゼロ・トレランス方式

 アメリカ公立学校教育界ではゼロ・トレランス方式を採用している場合が殆どだ。小さなことを見逃さないことが、その後の大きな問題を防ぐという考えで、キンダーの生徒から12年生まで、「暴力」「武器」「アルコール・ドラッグ」に関して細かなルールと罰則を定め、違反者に対し厳密な処分を行い、例外を認めない。
 遅刻や無断欠席、服装、子供の言動も細かなルールと学校の対処法が定められている。

校則(Discipline Code)のハンドブック

 ハンドブックには生徒の義務と権利も記されている。名称や形は各地で様々で文章の量も多い。
 例えばニューヨーク市教育局の発行する「Citywide Behavioral Expectations – Student Intervention and Discipline Code and Bill of Student Rights and Responsibilities K-12」は30ページ以上にわたり、公立学校での生徒の違反対象となる行動と対処法について、K―G5(小学生)、G6―G12(中学・高校生)各5段階に分類されている、微細なものとなっている。
 年齢にかかわりなく、保護者と生徒は、配布されたこれらの内容を理解し、遵守するというサインをしなければならない。

知らなかったではすまされない

 サインをしたということは、ハンドブックに書かれている内容に同意をしたことを意味する。
 新学期は各種手続きが煩雑で、他の書類とともに配布される長文のハンドブック全文に目を通すことを怠ってしまいがちだ。暴力や武器など、自分の家庭や、学区には関係ないという思いもあるだろう。
 しかし暴言、暴力には、小さな子供がつい口にしてしまう言葉、銃にまねた指でのヒーローごっこで友達を狙う、友達同志の押し合い、ストレスや、感情表現が下手で手が出てしまう事例も含まれる。特にカースワード、人種、セクシャリティーに関する言葉の使用に対しては格段に厳しい。
 武器も、学校に持参してはいけないとれされるものは、玩具でもゲームでも、部品の一部が危険物とみなされることもある。鉛筆を削るつもりの小型ナイフや、工作用の彫刻刀、台所用品や、文具という認識であるバターナイフ、キーホルダー、カッターナイフなども「武器 (Weapon)」のリストに記載され、所持だけでも問題になる。
 ある日突然学校から電話があり、子供が学校でしたこと、その対処の連絡をもらった時に、「そんなに厳しいのか」「そんなことは聞いていない」と抗議しても、サインをしている以上通らない。文化の違いや英語の理解も言い訳にならないのだ。

詳細に記載されている内容

学校側の基本姿勢

 校則違反の対処法は、生徒への注意、保護者面接、課外活動などへの参加禁止(detention/exclusion)、教室から隔離し校内の別の場所で課題を行う(Teacher,s removal from the class room)、5日以内の停学(Principal,s Suspension)、6日間以上の停学(Superintendent,s Suspension)と厳密に進む。
 行事への不参加や、クラスからの隔離は、罰であると同時に、問題を起こした生徒から、学校と全校生徒の安全を確保するという意味もある。「学校は全校生徒の安全を確保する義務がある。(生徒名)の行いが、その安全を脅かすおそれがないと判断できるまで教室への復帰は許可できない」という意味のレターを受け取り、日本の対応との差に違和感を感じる保護者も少なくない。
 公立学校は基本的に学校と在校生、スタッフを守ることが最優先だ。それに対応する個人は、感情的にならず、冷静に対処するように心がける。

親の介入の重要性

 ハンドブックには親の介入(Parents, involvement)の重要性が記載され、遅刻や無断欠席は保護者の子供への教育義務の遺棄とみなされ、問題行動も親の責任となる。
 新しい環境に慣れない、いじめへの反応、発達や精神的な部分でコミュニケーションが上手くできずについ手が出る、登校拒否になるなどの問題が出た場合は、学校のソーシャルワーカーや、サイコロジストへの相談や、医師にかかって診断書を取るなど、 保護者が対処のために具体的に行動することが求められる。

学校から連絡や、子供が傷を作って帰ってきた時

 学校側から電話があった場合は、内容と日時をメモしておく。傷の写真は小さくても写真に残しておく。学校とのやりとりは、メールにして残す。話し合いで英語に自信がない場合は、録音やメモ、通訳同伴の可能性を聞く。許可されなくても、聞いたという事実があれば、きちんと対応する保護者であるというアピールができる。好戦的な態度や威圧的な態度をとる必要はないが、事実が確認されるまでは「舐められない」という冷静さは必要だ。
 アメリカの学校は分業制で、先生は教科を教えることが仕事で、生徒の生活指導はカウンセラーなどの専門家があたる。校則違反も、初めに紋切り型で対応し、その後個別の事情が話し合いでなされるので、先ず担任の先生とじっくりと話し合うという日本のやり方とは逆に感じられるかもしれない。配布されるハンドブックをきちんと読むことで、アメリカの学校のあり方をより理解し、子供への適切なサポートに繋げよう。(文=河原その子)