11日付のニューヨーク・タイムズによると、ニューヨーク市元検視局長のチャールズ・S・ヒルシュ医師(79)が8日、ニュージャージー州バーゲン群ウエストウッドで死去した。ヒルシュ医師は2001年9月11日に発生した米同時多発テロの際、主任監察医として多数の犠牲者の身元確認を行ったことで知られている。
ヒルシュ医師の人物像を物語るエピソードの1つとして、飛行機がビルへ突入した直後に部下と現場へ駆けつけた医師は、世界貿易センター(WTC)ノースタワーの崩壊に巻き込まれ、全身打撲と全肋骨を骨折する大けがを負った。しかし医師は現場で応急手当てを受けると、任務を続けるために30丁目の検視官事務所へ、すすだらけの姿で戻ったという。
このテロでの犠牲者は2753人に上り、遺体は損傷が激しく、特定には困難を極めた。医師は身元が特定できない多くの遺体の一部を丁寧に保管したうえで、全ての遺族の元へ返すという強い使命をもちながら、確認作業を続けたという。このために、歯形や結婚指輪、髪の毛から採取した遺伝子サンプルなど多くの貴重な情報を収めたデータベースが作成された。
ヒルシュ医師は13年に引退するまでに、全犠牲者のおよそ60%にあたる1634人の身元を特定した。