25日付のニューヨーク・ポストによると、マンハッタン区のメトロポリタン・オペラで、たった5分の事前予告で上演中の主演が交代し、しかも代役がジーンズとTシャツとスニーカーで舞台に上がるという前代未聞のドラマが起こった。
23日、ベルディ作「オテロ」の上演中、主演を務めるラトビア出身のテナー、アレクサンドロス・アントネンコさんの声が、第4幕で突然出なくなってしまった。舞台監督はすぐに、楽屋にいた代役の歌手、フランネスコ・アニールさん(54)を呼び出した。
急なことで着替える時間がなく、アニールさんはTシャツ姿にケープをかぶり、舞台袖で「アリア」を歌い上げた。舞台上では、アントネンコさんが口パクでシーンを終えた。
まもなく、主役オテロに扮したアニールさんが登場となり、観客は驚いた。ケープの下から覗いていたのがジーンズとスニーカーだったからだ。それでもひるむことなく、妻役を殺した後、短刀で自害するというクライマックスを無事終え、観客から総立ちの拍手喝采を浴びた。
アニールさんは、過去11年間に各地でオテロ役を演じてきた経験があり、「代役が常に万全の準備をするのは当然」と平然の様子。好意あふれる観客の反応には、目頭が熱くなったと、マネージャーは修羅場を乗り切った感想を述べた。