日本の相続税と米国の遺産税:その①
問:日本で親の財産を相続し相続税を払った後、米国でも税金の支払いが発生するのですか?
解答:このような問い合わせに対して、基本的な2つの質問をして、解答を差し上げるようにしています。そして、日本で相続した遺産に対して、米国で税金を払う必要がないケースが、問い合わせの大半を占めています。
問:たった2つの回答(事実)で結論が出るのですか?
解答:基本的には導き出されます。その前に、まず、日本の相続税に対応する米国の税金に関しての基本のおさらいです。日本では、亡くなった方(被相続人)が残した資(遺)産を「相続した人(相続人)」が、相続税を払う制度(=特に法定相続分課税方式と呼ぶ)です。すなわち、納税者は相続人(達)です。一方、米国では遺産を残した人(被相続人)が、その残した資産額に応じて遺産税を払う制度(遺産課税方式)です。従って、米国での納税者は、相続人ではなく被相続人(遺産を残した人)です。日米真逆の構造です。
問:興味深いです。どのような遺産が米国で遺産税の対象範囲となるのですか?
解答:被相続人が「米国市民または米国居住者」の場合は、被相続人が死亡時に所有した米国内外(全世界)での財産が米国遺産税の対象範囲となります。そして、被相続人が「非居住外国人」の場合、死亡したときに米国に所在していた遺産が、遺産税の対象範囲となります(ただし、米国生命保険会社からの受取保険金や米国内銀行預金残高などは対象外)。
問:なるほど。では先ほどの2つの質問とは?
解答:1つ目の質問は、「日本でお亡くなりになった方(被相続人)は、米国の市民権を持った方(米国市民)なのかどうか」です。そして2つ目の質問は、「相続された資(遺)産は、被相続人が米国に有していたものが含まれていたかどうか、です。日本で亡くなった方(被相続人)のうち、これまでの経験上、多くの方は米国籍を有していません。従って、米国に住んだことがない方はもちろん、死亡時に米国永住権を有していても、米国に居を有していない(住んでいない)方も、米国遺産税上「非居住外国人」扱いとなります。
問:永住権保持者は、米国に住んでいなくても米国市民と同じく「居住者」扱いなのではありませんか?
解答:実は、所得税法上の「居住者」の定義と、遺産税法上のそれとは異なります。確かに、永住権保持者は所得税法上、日本に住んでいても「米国居住者」扱いです。一方、遺産税法では、「居住者」に関する定義は、米国内に(生活の基盤となる)住所を有する者とされています。従って、米国永住権を放棄していなくても、日本に本帰国して市区町村に住民票を登録している場合、米国に賃貸別件や別荘があっても、生活の基盤となる住所が米国に存在しない以上、非居住外国人(Non-resident alien)となります。ここでの重要なポイントは、「住所を有している:Domicile」という概念です。
問:そうすると、1つ目の問いの答えが「No」、つまり米国市民ではなく、2つ目の質問で、相続人が相続した財産が全て日本国内にあるものだった場合、被相続人は米国で遺産税を申告する必要はないわけですね。
解答:その通りです。今後、市民権を有したまま日本に本帰国なさるケースが増えていくことが考えられますが、米国市民や居住外国人に認められている現在の米国遺産税の非課税枠は、545万ドルになっています。ただ、問題となるのは、「非居住外国人(日本在住米国永住権保持者を含む)」が死亡時に米国に不動産を有しているケースは要注意です。このケースに関しては、次回に詳しく説明します。
Financial Advisor / Tax Specialist
羽山 徹
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