ニューヨークの神様 作:山田恵比寿 第1話 NYでの出会い

 2016年5月のNYは、イマイチ気温が上がりきらない。今晩も冷えるのかな。iPhoneのWeatherのアプリケーションをタップする。雨は降らないにしても、最高気温が63度までしか上がらない予報だ。実華子は、クローゼットから、ボンバージャケットを引っ張り出した。今夜は学校の後、予定がある。
 「ミカちゃん、友だちと居酒屋で集まるの。よかったら、来ない?」 
 タカコさんは、私をミカちゃんと呼ぶ。4歳年上で、5年間NYに住み、憧れのファッション業界でバリバリ働くタカコさんを、私はいつも頼りにしていた。自分のやりたい仕事だけで食べていく、というのは、一体どんな生活なのだろう。
 実華子がNYに来てから、1年半。本当にあっという間だった。それなりに楽しかった。見るもの全てが新鮮だ。何より、憧れたNYで生活する事実だけで、ワクワクした。だけど、一瞬で時は過ぎてしまう。実華子は正直焦っていた。

私、NYで、まだ何も成し遂げていない。

 私は今年の12月に30歳になる。東京の友達なら、会社では中堅になりつつある。私、未だに学生で、これでいいんだろうか。
 やっぱり、金銭的なことが大きい。NYは暮らしていくのに、何かとお金がかかる。タカコさんが誘ってくれたから、即答したけれど、今晩居酒屋ではっちゃけたら、今週は少し出費を考えなくていけない。チェイスに寄って、キャッシュおろさなきゃ。
 コリアンタウンにある、通っているPIアートスクールの最寄り駅、34丁目ヘラルドスクエア駅からM線に乗り、53丁目とサードアベニューの出口を出ると、この辺にはあまり来ることがないなぁと思った。セカンドアベニューの方角へ向かう。有吉という居酒屋もあり、道の両側にも飲食店が並んでいた。しばらくするとタカコさんがいうように、目印の招き猫が見えてきた。約束の時間ぴったりに着いたつもりだったけれど、タカコさんと男性のお友達は先に到着していた。
 店の奥の大きな招き猫の傍のテーブルに座る。私の頼んだビールがきて、初めまして、と乾杯し、店内を見回そうと店の入り口に目を向けると、なだらかなスロープをこちらにゆっくり歩いてくる男性が見えた。彼は後に、浩一ですと自己紹介した。

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実華子が浩一と会った店

ラッキー・キャット
232 E 53 St. bet 2 & 3 Ave.