Vol.48 歌手 髙橋真梨子さん

9月16日、日本人アーティストとして初の快挙となる、3度目のカーネギーホール公演を行う髙橋真梨子さん。「桃色吐息」や「for you…」などの往年のヒット曲だけでなく、近年は名曲のカバー作品集を次々と発表し、幅広い活躍を見せている。2014年には、ソロコンサート総動員数650万人を突破。今年、芸能生活50周年を飾る実力派シンガーが、3回目の登壇となるカーネギーホールでどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、心境を聞いた。(インタビュー日時:2016年4月19日)

photo by 田子芙蓉

Profile:髙橋真梨子
福岡県博多市出身。16歳で上京し、ジャズピアニスト柴田泰氏に歌を師事。1972年、ペドロ&カプリシャスの2代目ヴォーカリストとしてデビュー。1973年、「ジョニィへの伝言」が大ヒット。1978年にはソロデビューを果たし、「あなたの空を翔びたい」「for you…」「桃色吐息」など数多くのヒットを飛ばす。現在も精力的に活動中で、6月1日には昭和名曲カバー作品集第2弾「ClaChic2-ヒトハダ℃」を発売したばかり。

憧れのニューヨークで3回目の公演ができるなんて感謝!

―9月にカーネギーホールで公演されますね。髙橋さんがカーネギーホールでコンサートを行うのは通算3回目で、この回数は日本人アーティストとしては前人未到の記録です。記念すべき催しを控える今、どのようなお気持ちですか?

 憧れのニューヨークで仕事ができるだけで幸せなのに、カーネギーホールで歌えるなんて最高にうれしいです。ましてや何度も立てる舞台ではないですから、3回目の公演ができることに本当に感謝しています。

―カーネギーホールは、アーティストにとってはやはり特別な場所なのでしょうか。

 もちろん! 質感やグレード感が格別で、ステージに立つだけで感激します。ただ、カーネギーホールだからといって気負うことなく、日本でやっているいつものスタイルを貫こうと決めています。この考え方は1回目と2回目の公演のときも同じでした。奇をてらうことなくいつも通りに歌って、お客様と一緒にカーネギーというコンサートホールを楽しめれば、それだけで充分のような気がするからです。

―今年は芸能生活50周年を迎えられます。髙橋さんの歌う姿を拝見していると、キャリアを積み重ねてこられたからこその“自信”のようなものが伝わってくるのですが、ご本人としてもそのような感覚はおありですか?

 自信なんて、とんでもない。頑張って歌おうとは常に思っていますが、自信をもったことは今までに一度もありません。実はとても心配性ですし、舞台に立つたびにかなり緊張しているんです。

―いつも落ち着いていらして、緊張なさっているようには見えないのですが……。

 それはおそらく、私が“ひいた感じ”で歌っているからでしょうね(笑)。私は歌手を目指した頃からずっと、“歌の職人”になりたいと思っていて。歌うときは感情を抑えて“楽器のように歌うこと”を心がけています。その姿勢は、ひいた感じに見えるかもしれません。たとえば、「歌」と「楽器」を比較すると、「楽器」は吹いたり叩いたりすれば音が出ますよね。そうすると、ただやみくもに吹いて叩くだけでは、曲の素晴らしさは伝わりません。「楽器」には当然歌詞は存在せず、音で勝負するわけですから。感情を込めて演奏する必要があると思うのです。でも、それに比べて、「歌」には歌詞があるので、聴き手に感情を伝える手段は歌詞の力に任せればいい。歌手が歌詞に感情移しすぎて、それを聴いている側にそのまま押しつけると、ひとりよがりになる場合があります。そうすると、too muchになってしまいますよね。

―歌詞の意味はよく理解するけれど、そのときに得た気持ちは外に出しすぎないということですか?

 そういう形が理想です。心のなかはすごく燃えていて熱いのだけど、勝手に燃えすぎないというか……。なぜなら、歌の世界の主人公は、歌を聴いているお客様ですから。曲を聴いて意味をつけていくのはお客様一人ひとり。私は主人公ではないので、歌詞の意味を深く解釈したらそれを優しく伝えるだけでありたい。私にとって歌は仕事なので、歌に酔うことはしたくないのです。歌詞とメロディのバランスを理解しながら、よい兼ね合いで歌っていたいですね。

―歌の職人に徹するために、現在も、アルバムのレコーディング期間中は極力声を出さないよう努めていらっしゃるそうですね。

 はい。レコーディング期間中は、とにかく声を出しません。喉を守るためには、声を出さないことが一番いい方法なので、歌う以外はほとんど口を利かないんですよ(笑)。

―6月には、昭和名曲のカバーアルバム「ClaChic2-ヒトハダ℃」を発売されたばかりです。「さらば恋人」「Mr.サマータイム」などのなかに、松田聖子さんの「瞳はダイアモンド」もあって、意外なラインアップも魅力的ですね。

 今回は、今までにあまりカバーされていないような曲を意識して選曲してみました。聖子さんの「瞳はダイアモンド」はもともと大好きで、33歳の頃、ちょうど失恋したときにラジオからこの曲が流れてきたのを聴いて、「いい歌だな」と思って泣いた思い出があります(笑)。最近になって歌いたい気持ちが出てきて、今回歌わせていただくことにしました。

―アルバムには、ニューヨークに関する曲も2曲入っていますね。ビリー・ジョエルの「New York State of Mind」と、セルフカバー曲の「My Heart New York City」。髙橋さんにとってニューヨークは憧れの街ということですが、どのあたりが魅力ですか?

 とにかく、一晩中眠っていませんよね。25年ほど前、初めてニューヨークに行ったときは本当に驚きました。夜中にホテルのブラインドの隙間から外を覗くと、パトカーがひっきりなしにサイレンをウーーーン!と鳴らして走っていて、それが朝まで続く。それから昼間になると、道にイエローキャブがずらーっと並んで大渋滞。そして信号が青になると、途端にクラクションの音がブーブー鳴って大変な騒ぎ。あの光景を見たときは興奮しました (笑)。

―刺激的な雰囲気が好きなのですね。

 そうそう。でも一方で、ソーホーのあたりをぶらぶらしてブティックやギャラリーに入ったりするのも好きです。それから、セントラルパークでのんびり過ごすファミリーやカップル、そしてマンハッタンのアパートで暮らす地元のかたたちの姿を見るのもいいですね。ホッとします。いいなあ、老後はニューヨークに住みたいなぁと思ったこともあるほど (笑)。何度でも足を運びたい街です。

―カーネギーホールのコンサートを訪れるファンのかたたちは、今も変わらず活躍し続ける髙橋さんの姿を見て、きっと刺激を受けると思います。心がけていることを教えて下さい。

 たとえば喉の調子を整えるとか、歌手として最低限やるべきことはやっていますが、あえて言うなら…、立ち止まっていないのだと思います。アンテナは常に張っています。今はインターネットのおかげで、You Tubeなどでさまざまな動画を見られますよね。なので、気になるアーティストや流行っている音楽には積極的に触れるようにしています。でも、いろいろ見ても私は私だと思っているので、今までの自分のスタイルを崩すつもりはありません。その上で、私の歌を聴くことでファンのかたたちが希望や勇気をもって下さるのであれば、こんなにうれしいことはないですね。そういう感想をいただくと、もっと頑張ろう! と思います。

―最後に、読者にメッセージをお願いします。

 みなさんにお会いするのを楽しみに私も頑張ります。カーネギーホールでは特別な曲も懐かしい曲も用意してお届けしたいと思っています。ぜひお越しください。お待ちしております。

 
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前人未到、日本人アーティストとして3度目のカーネギーホールでの公演。お見逃しなく!

2016年 髙橋真梨子 with Henry Band

【日時】2016年9月16日(金)【開演午後8時】
【会場】カーネギーホール(大ホール/Isaac Stern Auditorium)881 7th Ave
【料金】SS席: $120、S席: $100、A席: $80、B席: $40
【チケット購入先】
●髙橋真梨子コンサート事務局 212-986-9141 www.marikotakahashi2016.com または、
●カーネギーボックスオフィス 212-247-7800 www.carnegiehall.org
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