マラケシュでミントティー②
コブラ使い、猿回し、火を噴くパフォーマー、そして亀の甲羅に、ミイラ売り。しゃんしゃん鳴り止まぬフィンガーシンバルは何百年響いているのだろう。どこか怪しげな空気の漂うジャマエルフナ広場。この近くに宿を決めたぼくは部屋に荷物を置いてすぐに出かけようと階段を降りていった。そしてモザイク装飾の中庭を通り抜けるとき、感じの良いティーテーブルが目に入ったので、せっかくだから何か飲んで行こうとそのまま席に着いた。
「ミントティーをください」
宿のおじちゃんに注文した。モロッコと言えばミントティーの本場。どんなお茶か楽しみだ。吹き抜けの四角い空から木漏れ日のような柔らかな光が差し込んでいる。窓のないアートフルな空間の閉塞した開放感は、旅で昂ぶる気分を徐々に落ち着かせてくれた。
「お待ちどうさま」
お茶が運ばれてきた。出てきたのは背の高いポットにティーグラス。おじちゃんはお茶を少しずつ注ぎ始めると、すうっと高くポットを持ち上げた。お茶はそれでもきれいに弧を描いて的に吸い込まれていく。波が立ち、泡が弾け、雫が上がるグラスにぼくは見入った。眠れる美女を叩き起こすような随分とアクティブな淹れ方にちょっと驚いたが、森閑な庵で嗜む日本の茶とは違う、鳴り止まぬモロッコのリズムそのままをグラスへ注いだような茶の揺らぎに心躍らせられた。
淹れたてのモロッカン・ミントティーを、さっそく味わってみた。やはりというか、かなり甘い…しかしこれは暑い地域の飲み物にはある意味当然のこと。だが、ミントの香りがそれに負けないほど強い。何だか深みがあり、ほのかな渋味や苦味も感じられる。「ミントってこんなにも奥深い味だっけ?」フレッシュミントの爽やかさだけではない、大人の清涼感がある。何かブレンドしてあるのかもしれない。
ポットの蓋を開けて中を見てみた。やはり大量のミントだ。ある程度は予測していたが、茎ごと数本のミントがねじ込まれたように入っている。この気候だから雑草のごとく生えてくるのだろう。そしてミントをかき分け底の方を覗くと何か違うものが入っていた。
「これかな…?」
つづく
浅沼(Jay)秀二
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
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