ニューヨークの神様 作:山田恵比寿 第2話 ニューヨークの嘘

 6月のある日、浩一くんからメールが入っていた。
 「お久しぶりです。ラッキー・キャットで会った浩一です。もう夏だね! 天気が良い日も多くなってきたし、もし、時間があれば、どこか気持ちの良い店でも行きませんか? 杉浦浩一」
 このメールを読みながら、口元がほころんでいるのが自分でも分かった。丁寧に自分を思い出させるところ、デートの誘いなのか友人としてなのかはっきりしないところ、「良い」を漢字にするところ、名前をフルネームで書いて結ぶところ。それらの特徴がとても好ましい、と思った。ニヤニヤしながら、そう考えていると、ラッキー・キャットで浩一くんが目の前に座ったときから、こういうメールを期待していた自分がいたことに気づいた。
 ユニオンスクエア駅にちょうど来たN線に飛び乗って、23丁目で降りると、よく晴れた空にエンパイアステートビルが映えて、胸が躍るのが分かった。ニューヨークの夏の日が長いのも嬉しい。フラットアイアンビルが指し示すように先細る先の左側に、浩一くんが行こうと指定したイータリーはあった。
 「待った? お待たせ。出かけにクライアントから電話入っちゃって。この店の上にルーフトップがあるんだよ。行こうか」
 考えてみれば会社帰りなのだから当たり前だが、スーツを着て、“くらいあんと”とか言う浩一くんは、日本のサラリーマンみたい、と思った。

 ニューヨークには、年齢や性別に関係なく、学生だったり、サラリーマンだったり、とにかくいろんな日本人がいる。

「この間会ったときの、リエちゃん覚えてる?」 心地よい空間と緊張感で上の空だったけれど、浩一くんの口から女性の名前が出てきたことでドキッとした。
 「浩一くんの隣に座っていた人だよね?」 そう言って、東京のOLみたいに、きっちりメイクした女性を思い出した。仲は良いのだろうか。
 なぜか、彼女のしている仕事や性格などを私に話した。「ここもリエちゃんが教えてくれた」って言った後、「ミカちゃんは彼氏いるの?」と聞かれた。日本に置いてきた彼氏のことを、私は言えなかった。 

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実華子が今月訪れた店

イータリー
200 5th Ave. bet 23rd & 24th St.