アメリカの私立学校で真っ先に頭に浮かぶのが学費の高額さだ。ニューヨーク周辺の都市部では、キンダーガーテンから、平均年間4万ドル。それだけを理由に、私立学校は無理だと諦めてしまっている人が大勢いるのではないだろうか? しかしながら、ファイナンシャルエイドのしくみを知ることで、教育のオプションとして、道は開けるかもしれない。
今回は2回に分けて、異文化子育て・金融業界でのキャリアを活かしたライフコーチであるマックギネス美和さんが代表を務める、「異文化生活情報発信:NY La Vie」主催の「NY学校説明会5W1H」が、ビアンキ曉子さんを講師に迎えて開催している私立学校入学セミナーを紹介する。
「あの時知っていればよかった」こと
二人のお子さんを私立学校に通わせる曉子さんは、ライフコーチとして私立進学もめざす保護者へのコーチングもする。私立への進学を考えた時に、一番困ったことは、 実際に通学している人が周りに誰もおらず、生の声や情報を得る機会が皆無だったこと。学校情報はあっても、ファイナンシャルエイドについては何も知らなかった。「当時の自分が知っていたら、どんなに良かったか。子供へのプレッシャーもなかったと思います」と曉子さん。その思いから始めた私立学校セミナー。5月27日は「ファイナンシャルエイド」がテーマだった。
生徒の二極化を避けるためのファイナンシャルエイド
私立学校のファイナンシャルエイドは全て、学費の支払いに足りない部分への返還不要の援助(Need – base)で、学力や能力を元にした(Merit – base)奨学金制度ではない。資金は公的な助成金ではなく、在学生保護者や卒業生などからの寄付によって賄われている。
一般に、私立はお金持ちの子弟の通学するもので、低所得者だけがファイナシャルエイドの対象になるというイメージが強い。「人気ドラマ『ゴシップガール』の作者が通学していた時代(30~40年前)はその通りで、生徒間にお金持ちと、貧困家庭の二極化がありました。でも今は変わってきています」と曉子さん。
学内生活が富と貧困だけで成り立ってしまうと、社会に出た時にその二極化された世界しか知らないことになってしまう。今は、その間を埋める家庭の生徒も学べるためのファイナシャルエイドという考え方になってきている。
例えば、学費4万ドルで12万ドルのファイナシャルエイドの予算がある場合、全額免除で3人入学させるよりも、全額免除を1人、半額の2万ドル援助を2人、そして1万ドル援助を4人入学させることで、多様な経済状態の家庭の生徒が集まる。「今はこちらの考え方が主流です」と暁子さん。有名私立学校でも、少なくても20%、多ければ40%の家庭がなんらかのファイナシャルエイドを受けているという。
私学進学のサポート団体
しかし前述のように、実際の情報に触れる機会は少ない。暁子さんのセミナーで紹介された、マイノリティーや低所得家庭の私立進学をサポートする非営利団体の存在を知る人は少ない(リスト1)。ミドルクラス以上の家庭では、ファイナンシャルエイドの対象になれないとの思い込みもあるだろう。
曉子さんは、私立学校を学費だけを理由に避ける前に、諦めずに、一度詳細に情報に触れてみて欲しいと力説する。
申し込み準備のタイムラインとNAIS
私立受験の申し込みは、入学年前年の8月から、最近では主流となったオンラインでの願書申請が始まる。通常の学校訪問や面接、提出書類準備などでも大変だが、ファイナシャルエイドを申請するための必要書類の準備も、大学進学並みに膨大なので時間の余裕を持って準備したい。
エイドの申請は各学校にするのではなくSchool & Student Service by & NAIS(National Association of Independent Schools)という機関へ一括して申請する。
提出された書類を元に、NAISが各家庭の経済状況にそって、その家庭が学費として支払える額の試算を行い、各学校に通知をする。NAISからの通知をもとに、最終的な援助の否、もしくは援助額を学校が判断を下して、結果を合格通知とともに各家庭へ通知するのが2月だ。
この時点での援助額は暫定的なもので、その後一定期間内に、増額の申請などが可能となる。ファイナンシャルエイドが出ても、入学を断る家庭もあるため、援助の総額が流動的になるためだ。そのため、曉子さんは、学校への総額の申請交渉は素早く行うことを勧める。
各学校で異なるファイナンシャルエイドの提供基準
ファイナンシャルエイドにより、経済的、人種的、社会的、文化的背景、 そして居住地の異なる「生徒の多様性(ダイバーシティー)」を学内にもたらすことは明確だが、その選考基準は、各学校によって大きく変わる。
私立学校は選考基準を明確に公開する必要はない。そこでいろいろな想像や噂も含めて、いかに生の情報に触れるかが大事になってくる。同じ家庭が、複数の学校から全く違う額の援助を申し出られることも普通だ。また想像以上の額をもらえることもある。私立学校に興味がある場合、その可能性をシャットアウトする前に、ファイナンシャルエイドについて検討する価値はありそうだ 。
ではなぜ私立か? 曉子さんと美和さんが語るその利点と魅力を、次回紹介する。(文=河原その子)
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リスト1)私立学校ファイナンシャルエイドのための無料サポート団体
●Early Steps
www.earlysteps.org
キンダーと1年生の有色人種の生徒と家庭の受験サポート
サービスを受けるための選考:場合によって有り
●Prep for Prep
www.prepforprep.org
5年生以上の有力人種のNY市の私立学校以外に在学中の生徒のサポート
サービスを受けるための選考:有り
●The TEAK Fellowship
www.takefellowship
低所得者家庭の生徒の高校・大学受験の準備のサポート
サービスを受けるための選考:有り
●Greenberg Educational Group, Inc.
www.greenbergeducationalgroup.com
私入学テストのサポートサービスに、ファイナンシャルエイドとしての割引を提供している サービスを受けるための選考:なし
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