ニューヨークの神様 作:山田恵比寿 第7話 ニューヨーク・ショック

 新たな大統領が誕生したことで、世界中がひっくり返りそうになるほど、慌ただしくなった11月のある日、久々にタカコさんと会う約束をした。なんだか、調子が良くない。何が理由というわけでもないけれど。パワーがあふれるタカコさんから元気をもらうか、話を聞いてほしかった。

早く会って、人のぬくもりを感じたいな

 会う日を2日後に控えたある平日の午後、学校帰りのヘラルドスクエアの駅構内で、突然、自分の身体が自分のものでないような、どこかに持っていかれてしまうような、急にそんな風に感じた。
“え? 私、倒れちゃう?”
 そう思ったら、具合の悪さを実感するより早く、とてつもない恐怖が襲ってきて、呼吸するのが難しく、心臓の音が体内でどんどん大きくなっていった。めまいもして、生まれて初めて、死ぬのかもしれないと思った。どうしよう。手が震えている。ここで意識を失ったらどうなるの。怖い。どうしよう。どうしよう。
 とにかくその場に座り込み、これが過ぎ去るのを待った。正直、どうやって家に帰れたのか、記憶にない。
 タカコさんとミートパッキングエリアで待ち合わせして、顔を見るなりすぐに私の異変を察知したようで、「景色のいいところ行こう」と言った。14丁目を9thまで来たら左折して、ガンズブート・ホテルの入口が見えた。一番上の階まで行くとバー。ハドソン川とニュージャージー側の景色が一望できる。
「疲れてるんじゃない。 大丈夫? 最近どう? 」と、飲み物を買ってから席に座って、矢継ぎ早に聞かれた。「大丈夫・・・あ、やっぱり大丈夫じゃないです」と言って、私は笑ったけれど、何でも話してね、と言いながら、私の手を握ったタカコさんの手に私の涙が落ちた。今年の私は泣いてばかりだ。
 おとといのことを話すと、「それって、パニック障害の症状だよ。思った以上に疲れているんだよ。NYってみんな大変で、忙しくて、自分のことに精一杯なときもあって、それが分かっているから、誰にも相談できなかったりして、みんな1人で抱えちゃう。そうやって、自分を追い込んでいるとき、あると思う」と、タカコさんは遠い目をした。きっと同じ経験があるのだろう。
「私にできることがあったら言ってね。困ったときはお互い様だから。NY仲間同士、支え合おう」
 日が落ち始めて、大好きなNYの夜景が広がる。夜景は美しく、そして残酷だ。

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タカコさんと行ったバー
ガンズブート・ホテル
9th Ave bet Little W12th & 13th St