例年よりも暖かい日が多く気を緩めていると、がつんと寒くなる、いかにもNYらしい1月のある日、ブルックリンのダンボにメリーゴーランドがあると聞いて、見に行こうと歩いていたら、東京の幼なじみの奈美からLINEが入っていた。
「実華子、知ってる?」と始まったその会話で、どうせ日本のくだらない芸能ニュースかと思ったが、「ちょっと言いづらいんだけど」という文字が画面に浮かんだとき、ドキリとした。
「亜矢、斉藤くんと付き合い始めたみたい」
亜矢は、奈美と同じく幼なじみと呼べる、昔からの仲良し3人組の1人だ。 雅樹と?亜矢が? 2人の名前をカップルとしては頭の中で組み合わせられないが、心臓のドキドキが、どこか心当たりがあることも否定しなかった。
「私はちょっと許せなくて」。奈美は、私が言いたいような言いたくないような言葉を送ってきた。私は、2人の姿を見ていないから、実感が全くないのだ。
私たちは別れている。しかも、別れを切り出したのは私の方。だから、何も言う権利はない。それが、オトナとしての正解だろう。だけど、「なんで、あえてそこにいくの?」という悲鳴にも近い疑問が頭を駆け巡った。
「亜矢、そういうところあるじゃん。それが嫌なんだよね。私が言うことじゃないけど」奈美は続けた。
“そういうところ”。それが私の思いついたことでもあった。確かに亜矢にはそういうところがある。人に嫉妬して、人のモノを欲しがったりするところだ。
雅樹は“私のモノ”ではないけれど、世の中には、人が嫌がると分かりきっていることを、これまでの友情なんかまるで存在しなかったように、してくる人がいるのだ。
言ってはいけない。口にしてはいけない。言った瞬間に、それは真実になる。
だけど、私は止められなかった。
「私、もう亜矢とは二度と話したくない」
雅樹のことをベタ褒めしていた亜矢。それでも、雅樹と喧嘩したとき、別れるべきじゃないよと仲直りのきっかけを作ってくれたこともあった。私がNYへ発つとき、空港で大泣きした亜矢。これまで、ずっとずっと親友だと思っていたのに。
怒り、悲しみ、あきらめ、叫び。複雑に交錯するさまざまな気持ちがメリーゴーランドの馬のように、くるくると同じ場所を回った。
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