ファッションウィークが嵐のように過ぎたのもつい先週のこと。地下鉄2番線はファッショニスタやモデルたちの大移動に少なからずひと役買ったはず。 新72丁目駅に何やらアパレル業界勤務と推測できるオシャレボーイを発見。待ち合わせ中なのか、上を眺めて赤い風船を眺めている様子…ですが、目を凝らすと、なんと正体はモザイク壁画! 色とりどりの石をはめこみ、ご丁寧に自然な影まで付いています。リアルな描写に感心し、しばし鑑賞。メガネ部分はミラーグラスを掛けているかのように鮮やかな色の石を使って巧みに表現しています。
駅構内に目をやると、工具を両手いっぱいに抱えた地下鉄工事の労働者や、ヤンキースのキャップを被ってペーパーバックの本を読む人など、いわゆるマンハッタンの街で見かけるようなニューヨーカーの姿がそこに描かれていました。今見ればそこに自然な共感を得ますが、きっと10年後にこれを見た人は、ファッションの流行が過ぎ行く早さを感じることでしょうか。
これらはブラジル・サンパウロ出身でニューヨークで活躍する現代美術家、ヴィク・ムニーズの作品、「Perfect Strangers」。実際に撮影したポートレートをもとにしたモザイク。彼の代表作のひとつに、故郷ブラジルの世界最大といわれるゴミ集積場で資源ゴミを回収する人々をテーマにした作品があります。その制作模様を収録した2010年公開のドキュメンタリー映画「Waste Land」は同年のアカデミー賞ドキュメンタリー部門最優秀賞の栄冠を得ました。彼の作品群は新72丁目駅では実際に目にし、触ることもできます。
毎日急いで通り過ぎる駅や街角の壁にはアートが溢れ、表現したいという世界各国から来たアーティストのエネルギーがニューヨークには満ち溢れています。そうそう、こういうところがこの街の愛すべきところ、と身をもって実感させられることでしょう。
Vik Muniz www.vikmuniz.net
フリー・ジャーナリスト
Aya Komboo
www.ayakomboo.com
日本では数々の出版社で経験を積み、フリーランスへ転身。2006年よりロサンゼルスへ渡米し、現在はニューヨークを拠点にファッション/カルチャー誌などで活躍している。