アレルギーとは
ユン・シーン Eun Sheen, M.D.
梨花女子大学医学部卒業。ニュージャージー医科歯科大学でアレルギー免疫学フェローシップ修了。にきび治療、にきび、にきび痕の除去、アトピー性皮膚炎や食物・動物アレルギーの治療、化粧品や化学物質によるかぶれや腫れなどの治療が専門。
Holy Name Medical Center
718 Teaneck Rd, Teaneck, NJ
Tel: 201-833-3000
www.holyname.org
意外に新しい現代病
現代生活と切っても切れない病気、アレルギー。ギリシャ語で「変わった」とか「奇妙な」を意味するallosと、「作用」や「反応」を意味するergonを組み合わせて作ったドイツ語の新造語で、1906年にオーストリアの小児科医フォン・ビルケがアレルギーの概念を提唱した最初の医師だという。認知から1世紀余りの比較的新しい病気なのだ。
一口にアレルギーといっても花粉症やぜんそくから食物アレルギーまでさまざまな形態がある。日本や米国など先進国ではアレルギー患者の数は増加傾向だ。ニューヨークでも最近は「穀物アレルギー」でパンもライスも食べられない、なんて話をやたらと聞く。アレルギーとは何か? どうして発症するのか? 数ある治療法の中で何を選んだらいいのか? 予防できるのか? 完治するのか? ニューヨークに特徴的なアレルギーはあるのか? 摩天楼クリニックでは、とめどなくあふれるそんな疑問に答えてゆく。アドバイザーはホーリー・ネーム・メディカルセンターのユン・シーン医師。ニューヨークのアレルギー専門医として30年間、臨床現場に携わってきた。
免疫システムの暴走
「ほとんどのアレルギーは親世代からの遺伝です」。のっけから身もふたもないことをおっしゃるシーン先生だが、それならどうしたらいいのよ? と聞き返す間も与えず言葉をつないだ。「まずはアレルギーがどうして起こるか? メカニズムを知ることが大事です。ウィルスや細菌が入ってくると人間の体内には『抗体』が作られ、こうした外敵を倒そうとする仕組みが備わっています。これを『免疫』と言います。しかし、この免疫システムが食物や花粉など通常は私たちの体に害を与えない物質に向けても『有害物質』と過剰に反応して攻撃をするため、その結果、かゆみだとか鼻水や咳などの症状を誘発してしまう。これをアレルギー反応と呼ぶのです」。
つまり、もともとは体を防衛するはずの「兵器」が、敵でもない相手に反応し攻撃する。そのために健康な体までが傷ついてしまう。これがアレルギーの正体だ。近隣諸国を敵対視して危機を煽り、見境なく攻撃を仕掛けては惨禍を招く昨今の国際関係にも似ていなくはない。
“アレルギー体質の人は抗体・免疫グロブリンEの血清中濃度が高く、この抗体とアレルゲン(抗原)が肥満細胞上で過剰反応を起こし、さまざまな症状を誘発します”
因果関係を把握しよう
「大事なポイントなので、もう少しディテールを頭の中に叩き込んでおくといいですよ」とシーン先生。順を追って説明してもらうと、こういうことだ。
①アレルゲン(抗原)と呼ばれる異物(花粉や卵、小麦など)が体内に入って肥満細胞(顆粒細胞)と付着すると、Bリンパ球が抗体IgE(免疫グロブリンE)というタンパク質を放出して、抗原を排除しようとする。
②遺伝的にアレルギー体質を持っている人はIgEの血清中濃度が高く、この抗体が抗原と肥満細胞上で過剰反応を起こす。
③それが原因で肥満細胞(肥満というだけに様々な化学物質で膨れ上がっているのが特徴)に蓄積されていたヒスタミン他の化学物質が血中に放出され、かゆみ、発疹、目の充血、鼻水、咳などの症状を引き起こす。
ちょっと難解だったが、メカニズムは一応理解できた。では、アレルゲンごとにどんな症状が出るのだろうか? どんな治療法があるのだろうか? 次回は、今の季節にもっとも気になる花粉アレルギーについて、引き続きシーン先生に聞く。
(次週に続く)