摩天楼クリニック「ただいま診察中」 アレルギー大全 【5回シリーズ その5】アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎

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梨花女子大学医学部卒業。ニュージャージー医科歯科大学でアレルギー免疫学フェローシップ修了。にきび治療、にきび、にきび痕の除去、アトピー性皮膚炎や食物・動物アレルギーの治療、化粧品や化学物質によるかぶれや腫れなどの治療が専門。
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 アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis、以下AD)は、アレルギー疾患の中でも皮膚の湿疹を伴う症状で、乳幼児期に発症しやすい。しかし成人しても治らないケースが多く、現在、日本では20歳以下の10人に1人がADと推測されている。
 ADの特徴は、痒みと湿疹の繰り返しだ。治ったかと思うと再発する。ADにかかったアレルギー体質の人は、皮膚の痒みを覚え、患部を掻く。するとそこがジュクジュクとなり新たな痒みが生じるのでまた掻く。痒みの悪循環で皮膚はやがて赤く腫れ、硬質化し、慢性的にただれる。特に、就寝中に狂おしいほど痒いので睡眠不足になり患者のQOLは最低となる。
 かくいう筆者も10代(1970年代)はADに悩まされ、膝の裏、肘の内側、首は悪魔のようにただれ、常に赤く変色していた。アトピーという言葉が初めて世に出たころのことだ。原因不明で治療法もない皮膚病ゆえに友達からは白眼視され、恋人など望むべくもなく、暗い青春時代だった。しかし、実家を離れ一人暮らしを始め、衣食住の環境が変わると、いつしか「赤い悪魔」は姿を消した。

原因はフィラグリン遺伝子異常
 「AD発症の要因は、花粉や空気中のアレルゲン、食物、ストレス、湿気などさまざまです」と話すのは、アレルギー専門医ユン・シーン先生。シーン先生によると、2006年に発表された研究により、ADの正体がかなり分かってきたそうだ。鍵となるのは、フィラグリンというタンパク質だという。「フィラグリンは、皮膚を正常に成長させ、肌に自然な潤いをもたらす役目をしています。このフィラグリンの遺伝子に異常がある人(人口の約10%)がADを発症する可能性が高い(56%)のです」。
 フィラグリン遺伝子に異常があると肌が乾燥しやすくなり、ひびができやすくなる。つまり、皮膚のバリア機能が低下する→そこからアレルゲンが侵入して基底層に到達する→アレルゲンが肥満細胞と付着するとIgE(免疫グロブリンE。シリーズ第1回を参照)が過剰に放出され、湿疹などを誘発。どうやら、これがADのメカニズムのようだ。
 生まれつきフィラグリンの少ない体質の人は皮膚の「防衛システム」が弱いため、ダニ、花粉、ほこり、化学物質、空気汚染、激しい気候変化などの影響で過剰反応が出やすいのだという。フィラグリン遺伝子異常の定期検診方法は、現在開発中とのことだ。

 フィラグリン遺伝子に異常があると肌のバリア機能が低下し、基底層に侵入したアレルゲンが肥満細胞と付着し、免疫グロブリンEが過剰に放出され、湿疹などを誘発します

痒みを抑え、バリア機能を高め、炎症を抑える 
 では、ADの症状を抑えるにはどうしたらよいのだろう?
「AD治療の3つの柱は、①痒みを抑える②皮膚のバリア機能を高める③炎症を抑える、です。そのためには、皮膚を清潔に保つこと。痒みの制御には抗ヒスタミン剤を使い、患部には副腎皮質ステロイドやカルシニューリン阻害剤を適用して炎症を抑える、というように多方面からアプローチするのが一般的です」とシーン先生。

FDA認可の新薬2つ
 ADには3本柱で対処するとして、新しい治療薬は出ているのだろうか?
 「昨年末、FDAから認可を受けた薬にクリサボロール(商品名ユークリサ「Eucrisa」)があります。これは2歳以上で症状が中程度の患者に適用可能な塗り薬ですが、ステロイドが入っていないのが特徴です」。ステロイド軟膏は、体内にあって炎症を抑える副腎皮質ステロイドホルモンを化学的に合成して作った医薬品で、AD治療に効果があるとして長年処方されてきたが、皮膚を薄くする、皮膚の下の血管を太くして皮膚が赤くなる、産毛が濃くなるなど副作用も多く、使用には注意が必要だ。「その点、この薬はステロイドフリーなので安心です」とシーン先生。

 新しい治療薬としてFDAから認可を受けたユークリサはステロイドフリー。モノクローナル抗体を使ったデュピクセントは中度から重度の患者用の炎症抑制剤。他の対症療法で効果がなかった場合に有効です

 もう1つの新しい薬にデュピリュマブ(商品名デュピクセント「Dupixent」)がある。これは中度から重度の患者用の炎症抑制剤で、モノクローナル抗体を使った新薬。「モノクローナル抗体とは、1種類だけのB細胞から作られた抗体で、抗原の特定の目印に向けてピンポイントで攻撃できます。この薬は、他の対症療法で効果がなかった場合に有効です」。つまり、めちゃくちゃ命中率のいい銃に持ち替えて不法侵入者をやっつけるという感じだろうか。ちなみにモノクローナル抗体の実用化の背景には、近年のバイオテクノロジーの目覚ましい進歩があるそうだ。health_daily

 執拗な痒みで生活と人生を台無しにするアトピー性皮膚炎。その全貌はまだ明らかにされていないが、発症メカニズムは、他のアレルギー反応とほぼ同じということが判明している。やはりキーワードは「免疫グロブリンEの暴走」である。大事なのは、患者本人がフィラグリン遺伝子異常などの持ち主=アレルギー体質だと自覚、認識すること。それを知った上で、医師とよく相談して、痒みと炎症を抑える最適の処方を冷静に決断するのが完治への近道のようだ。(了)

*次週からは自閉症について解説します。