今年の「ジャパン・カッツ」(ジャパン・ソサエティー主催)で主演作「オーバー・フェンス」(16年、山下敦弘監督)と「FOUJITA」(15年、小栗康平監督)が上映され、日本映画界への貢献をたたえるカットアバーブ賞を受賞したオダギリジョー。今や日本映画界に欠かせない存在となり、日本国外へも活躍の場を広げている。穏やかに、そしてじっくり丁寧に質問に答える姿からは、作品への熱誠が伝わってくる。40代に入りますます目が離せないオダギリジョーに、「オーバー・フェンス」について聞いた。(7月20日)
Profile:オダギリジョー(1976年2月16日、岡山県生まれ)
日本の俳優。主な出演映画に「アカルイミライ」(03年、黒沢清監督)、「オペレッタ 狸御殿」(05年、鈴木清順監督)、「ゆれる」(08年、西川美和監督)、「舟を編む」(13年、石井裕也監督)など。外国作品には「悲夢」(09年、キム・ギドク監督、韓国)、「マイウェイ 12,000キロの真実」(11年、カン・ジェギュ監督、韓国)、「FOUJITA」(15年、小栗康平監督、日仏合作)などがあり、10月6日には日本・キューバ合作の主演映画「エルネスト」(阪本順治監督)の公開(日本)を控えている。
共感というより、生々しさを
−日本での公開から約1年後にニューヨークで上映されることになりますが、改めて作品と向き合って今のお気持ちは。
(公開以来)観てないんですよね(笑)。
−では今夜(20日)久しぶりに観ることになりますね(笑)。約2年前の撮影を振り返ってみていかがでしょう。
映画って、撮影してから大体1年以内に公開になるので、「あの時期の自分」を振り返らされるというか。昔の自分に向き合わなきゃいけないというのが、毎回不思議な気持ちになります。
−その作業も俳優の仕事の1つですね。
そうですね。
−山下監督やこの作品から吸収したことは何でしたか。
…(考えて)何ですかね。面白い台本だなと思ってお引き受けしましたけど、もし20代でこの台本を読んでも面白いと思わなかったかもしれないですね。20代でこの作品に出演しても、今と同じことはできなかったと思います。要は、40代になったからこそできたことが(この作品には)非常に多く詰まっていて、それは監督が山下さんで同い年だからということもあるでしょうし、逆に今までいろんなものを吸収したからこそ、この作品に活かせた、そういう感覚の方が近いかもしれないですね。
−オダギリさん演じる主人公・白岩と蒼井優さん演じる聡(さとし)の愛の物語ですが、暗くて不器用な男の恋愛感情を表現するのは簡単ではなかったと思います。
恋愛ものと言われれば確かに今はそう思うぐらいで、あんまり恋愛だとは思っていなかったので、全く(恋愛感情については)何も工夫などはしていないです。
−確かに。愛はありますが、実際ラブストーリーと言われたらピンと来ない。
そうですね。
−白岩の持つ「脱力感」を表現するためにあえて心掛けたことなどは。
…役から読み取れる、何というか「空っぽ」な感じが白岩のキーワードの1つのように感じていたので。空っぽが適当な言葉かどうか分からないですけど。…キャラクターが持つ何個かのキーワードは外さないように注意していたくらいですね。
−その他にはどのようなキーワードが浮かんでいましたか。
それは内緒です(笑)。あんまり言ってしまっても面白くないでしょう。
−作品を観て想像してください、ということですね。では、白岩とオダギリさんご自身の近いと感じた部分は何でしたか。
何でしたかね。うーん。…たくさんあったと思うんですけどね。正直なところはよく覚えていません。もう2年前なので(笑)。
−共感できた部分は思い出せますか。
それもたくさんあったと思うんですけどね。
−例えば、浮かれる同僚や若者に「楽しいことなんてない」と乾いた言葉を冷淡に放っていましたが、そういうところも共感できましたか?
あ、そういうところもあると思います。
−少し世間を引いて見るという感覚?
…自分にとってというより、世の中の人全てに当てはまってほしいなと思ったのは、「笑ってごまかす」みたいなところですね。社会生活を送る上で、とりあえずここは笑ってごまかそうみたいなことって、たくさん出てくるじゃないですか。それを白岩はたくさんやっていそうだなと思って。そこは、共感というよりは作品を観ている人に生々しく感じてもらいたかったというか、そういう自分にも気づいてしまうというような、そんな感覚になってもらいたかったというか。
−おとなしい人物が言うからこそ、突きつけられる言葉でした。
結局、あの若者たちに言っているようで、自分に言っていることでしょうし。
−逆に、白岩と共感しづらかった部分は?
何ですかね。…ああいうタイプの女性にはいかないですね。
−2人が最初に出会うシーンで、聡が道端で大声で鳥のモノマネをしていましたが、もし実際にああいう人がいても見つめたり話しかけたりはしませんよね(笑)。
スルー…でしょうね。
−作品の終盤、野球の試合で白岩が打った球がホームランになったのかどうか微妙なところでシーンが終わります。原作者・佐藤泰志の自伝的な物語ですが、この後、白岩にどのような変化があったのかもう少し見たいと思いました。
それ(白岩のその後)は僕が言っちゃダメです(笑)。お客さんの楽しみを奪っちゃうので、ぜひ想像してください。
−私はホームランになって、何か1つ「オーバー」して(乗り超えて)少しだけ社会的に明るい男になったような印象を受けました。
そういう風に想像していただいたらいいですね。
−最後に、オダギリさんがいらっしゃることを楽しみにしていたニューヨークの方々に、メッセージをお願いします。
僕もアメリカに留学していたことがあるので、(別の取材で)近いものを感じると言っていただきました。そう言われると僕もちょっとは社会の役に立てているのかな。ニューヨークで頑張っている日本人の方々のお役に立てているのなら本当にうれしいですし、がんばっている人は応援したいので、みんなせっかくアメリカまで来て夢を追いかけているのだろうから、ぜひ突き進んでいただきたいと思います。
Interviewer : Miho Kanai / Photographer : Mai Tomono