摩天楼クリニック「ただいま診察中」 血液大全 【10回シリーズ、その9】その他の血液の病気(中)

その他の血液の病気(中)
ketsueki170918
川畑公人 Kimihito Cojin Kawabata, M.D., Ph.D.
コーネル大学医学部血液腫瘍内科博士研究員。2003年九州大学医学部卒業、医師。11年東京大学大学院医学系研究科卒業、医学博士。03年から国立国際医療センター医師。11年から東京大学医科学研究所研究員、日本学術振興会特別研究員を経て16年10月から現職。専門は血液悪性腫瘍、分子生物学。

Qまずは血小板の方からお聞きしたいのですが、どのくらいその数が減ると異常とみなされるのですか?
A医療機関からもらった血液のデータを見て、血小板の基準値範囲は15万〜35万/μl(マイクロリッター)ですが、これが下限の15万/μl未満になると、血小板減少を考える数値といえます。減少の程度によって、軽症(血小板数:10万から15万/μl)、中等症(同5万から10万)、重症(同5万未満)と分類されていますが、疾患の種類や患者の状態によって出血のしやすさや深刻度は大きく異なるので、この分類だけに頼るのは間違いの元です。

Qこれ以上下がると命に関わる「危険水域」のような数値はあるのですか?
A目安として5万未満からは手術時の出血の危険が増します。2から3万を切ると、これはもう自然出血が起こる可能性があると考えられますから、輸血や早急の治療を検討します。検討しますというのは繰り返しになりますが、病態によって出血のしやすさは大きく異なるのです。またむやみに輸血をしない方がいい病気もあります。

Qどんな病気が血小板を減少させる原因となるのでしょうか?
A血小板減少症には大きく分けて①血液腫瘍、特に汎血球減少(赤血球、白血球、血小板の全ての血中細胞成分が全体的に減少すること)を起こす急性白血病などの疾患が原因の骨髄不全による2次性のもの、②血小板自体が減少するのが疾患の首座である1次性のものに分けられます。

Q最初に、1次性のものについて教えてください。どんな病気が血小板自体を減少させるのですか?
A注意すべきことですが、実は採血の方法により見た目が少なく見える偽性血小板減少というものもあります。患者さんが血液内科に来るとまずこれを確かめるために採血し直します。次に1次性2次性の細かい分類は少し複雑ですが、まず薬の使用が原因の血小板減少症についてお話しましょう。抗凝固薬のヘパリン、痛みを止め熱を冷ますアセトアミノフェンやイブプロフェン、そしていくつかの抗生剤、ガスターなどおなじみの胃薬なども血小板減少の原因になることがあります。

Q薬が血小板を減らすのですか?
Aはい。薬を飲むと早い人で数時間後には早くも減少が始まります。

Q治療法は?  
A原因となる薬の内服を即座に中止することです。通常、1週間以内には血小板の数が正常に戻り始めます。他にも、血小板を減らす原因としては、HIV、HCV、EBなどの感染症、過度のアルコール摂取などがありますし、肝硬変になると脾臓が腫大するので血小板の破壊が進み、血小板の数が減少します。妊娠中にも血小板が減る場合がありますね。自己免疫疾患が原因となることもあります。

Qこうした原因が当てはまらない血小板減少もあるのですか?
Aはい。免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)と呼ばれる疾患で、出血が止まりにくくなり、皮膚の下で内出血が起こり、紫斑を作ります。自分自身の免疫により血小板が破壊されるための血小板減少なので、ステロイドなど免疫を抑制する治療法が有効なことが多いです。
 この病気では、血小板が2万以下になっていても深刻な出血なく過ごしている例も見受けられます。病因はまだよく解明されていない部分もあるのですが、一部の症例ではピロリ菌(胃の粘膜に生息する細菌で、胃炎や胃潰瘍、胃がんの原因となる)との関連が認められており、ピロリ菌を除去したらITPが改善したという例もあり、標準治療の1つになっています。

Q止血のもう一つのメカニズムである凝固因子に問題が生じて出血傾向が現れることもあるのですか?
Aはい。前回にお話したように血液中には凝固因子という酵素の反応の連鎖(カスケード)によって血液を固めるシステムがあるのですが、この凝固系に異常をきたすと、出血性の疾患を起こすことがあります。例えば遺伝性の疾患としてよく知られる血友病(血が止まりにくい病気)は、カスケード中の第Ⅷ因子または第Ⅸ因子と呼ばれる凝固因子が生まれつき不足している人の病気で、生涯にわたり足りない因子を補充する必要があります。

Q凝固因子の欠乏による出血症状には特徴があるのですか?
Aはい。関節内、あるいは筋肉内などの比較的大きな出血が特徴ですね。血友病以外にも肝硬変の人は、血小板が減るだけでなく肝臓で凝固因子が作られないので出血しやすくなります。肝硬変の人が発症しやすいものとしては食道静脈瘤があります。血小板が少なく凝固因子も不足していると静脈瘤が破裂して致命的な大出血を引き起こすことがあります。

Q血液の病気には遺伝も含めさまざまな要因があるのですね。問題は、その原因をとことん突き詰めて正しい診断を下し、それに応じた最新の治療に臨むことだと理解しました。
A出血は、数ある症状の中でも心配の大きな種ですよね。特に異常出血した際の不安は察して余りあります。そのまま放っておくことはないと思いますが、原因解明に医師は細心の注意を払うべきだと思います。血小板減少一つとってもさまざまな理由がありますから。出血したらまず病院に駆け込んで速やかな診察を受けてください。正確な早期診断が何よりも大切です。
0.13.04
*次週は白血病について解説します。