第五回:芋焼酎「吉兆宝山」とスイスの「グリュイエール」
3年目に入りました焼酎ソムリエ大竹彩子によるこちらのコラム。今年度はチーズと焼酎とのペアリングをテーマに、ニューヨークで飲める焼酎の中から毎回一銘柄をピックアップし、それに合うチーズを紹介していきます。
月曜の夜からチーズをつまみに焼酎を一献いかがでしょうか?
芋焼酎の中でも絶大な人気を誇る鹿児島県は西酒造の造る「宝山」シリーズ。この蔵で造られるほとんどの芋焼酎に黄金千貫(コガネセンガン)といって芋焼酎の原料に最適と言われるさつま芋が使用されており、「宝山」シリーズもその代表です(一部限定品等を除く)。そのシリーズの大きな違いは使用する麹の種類で、まず宝山の基本とも言える代表銘柄「薩摩宝山」(白麹)、続いて今回の主役、黒麹で仕込む黒ラベルの「吉兆宝山」、そしてその兄弟のような存在にあたる黄麹の黄ラベル「富乃宝山」と白麹の白ラベル「白天宝山」があります。中でも吉兆宝山はロックで飲むときの香りや甘みの印象は控えめながら、そこには黒麹仕込みらしいしっかりとしたボディが際立ち、焼酎通を唸らせます。そしてお湯割にした瞬間、その表情はガラッと変わります。芋の香りが湯気と共に豊かに立ち、一気に甘みが増します。そしてその深い味わいの余韻は爽やかさを含みながら鼻に抜けていきます。同じ焼酎でも飲み方によって味わいを変化させる「吉兆宝山」。そこには造り手の自信と誇りがみなぎっています。
そんな「吉兆宝山」は数々のチーズと相性が良く、チーズ好きの筆者としてはとてもうれしい焼酎。今回はスイスチーズに代表される「グリュイエール」を合わせてみました。1115年より同名地方で作られ始めたことからこの名がつきました。直径50cm以上の大きな円盤状で、原料である牛の生乳は1つの塊を作るのに約500〜600リットルを要します。熟成期間は6〜10カ月と長めですが、熟成系には珍しく臭みやクセはなく、クリーミーで塩分も控えめ。ナッツのようなコクと香ばしさが特徴です。熱することで旨味が増すことから、チーズフォンデュやグラタンなど、さまざまな料理に適したチーズですが、ここはあえて常温のまま楽しんでみてください。先にグリュイエールを口にし、数回噛んでから吉兆宝山を口に含むと、両者の甘みと旨味が互いを刺激し合い目覚めるかのように、徐々に口の中に広がっていきます。今宵はグラスとチーズボードへ伸びる手が止められないかもしれません。
一口メモ
今回ご紹介したのはスイス産ですが、実はフランス産グリュイエールも存在します。フランスでは13世紀頃から自国で作られたハードチーズを一般的に「グリュイエール」と呼んできましたが、先にスイス産グリュイエールがAOCという原産地統制呼称の認定を受けたために、スイス産のものしかグリュイエールという呼称を使用できなくなりました。しかし、フランスの生産者達が強く働きかけ、2012年にフランス産もその呼称を認められましたが、区別としてチーズ内部にさくらんぼ大の穴がポコポコと空いていなければならない、という条件付きでした。
大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。
焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com