新連載③ 山田順のメールマガジン「週刊:未来地図」 北朝鮮を攻撃しないで崩壊させる方法(下)

金正恩を追い詰めず逃げ道をつくっておく
 ただし、ここでトランプは「北朝鮮国民(ピープル)にはなんの罪もない。危害を加えない」と宣言する。そうして、脱出してくるならすべて受け入れると言って、これを実行し、キム坊とその取り巻きがギブアップするのを待つのだ。
 これが成功したケースは歴史上数限りなくある。秀吉の備中高松城攻め、江戸城無血開城などは、成功例の典型である。ただ、このケースで大切なのは、敵のリーダーに逃げ道を用意しておくことだ。つまり、金正恩を追い詰めて命を取るのではなく、名誉ある亡命を選ばせるのである。ロシアか中国に引き受けさせる。今回の国連制裁も、金正恩の海外資産を完全凍結はしていない。このような逃げ道を用意しているわけだ。
 アメリカ政府の対外戦略を練っているのは、ビジネスマン上がりのティラーソンを除いて、元軍人だ。それも現役時は大将、中将クラスだったから、金正恩などよりはるかに戦略には長けている。ジェームズ・マティス国防長官、ハーバート・マクマスター補佐官、ジョン・ケリー首席補佐官らは実際の戦場でも指揮を執り、数々の勲章に輝いている。彼らはみなインテリ軍人で、トランプなど足元にも及ばない。
11月のトランプのアジア歴訪後に空母派遣

 前のメルマガにも書いたが、アメリカは地政学で言えば「シーパワー」であり、戦略的に動くときは、必ず空母打撃群(aircraft carrier strike group)を動かす。どこかの国、地域を攻撃すると決めたときは、最低でも3隻の空母を展開する。
 1986年のリビア空爆は空母3隻、湾岸戦争は空母6隻、ユーゴ空爆は空母1隻+同盟国軽空母2隻、アフガン攻撃は空母4隻、イラク戦争は空母6隻で攻撃を実行している。
 したがって、まだトランプ政権は戦争モードには入っていない。ベネズエラ、シリア、アフガニスタンでの対応に追われ、手が回らない状況にある。しかし、時間切れになってはならないので、そろそろ空母を動かしてくるだろう。
 それは11月初旬のトランプのアジア歴訪(日本にもやってくる)の後になるだろう。このとき、ロケットマンがなにもしないわけがないと思うが、それがあろうとなかろうと、空母打撃群は朝鮮半島に向かうだろう。
 現在、東アジア海域に展開しているのは横須賀ベースのロナルド・レーガンただ1隻だが、いずれのほかの空母も西太平洋地域に展開されてくるはずだ。その候補は、長期休養後、先月訓練を再開したカール・ビンソン、訓練航海を終えたばかりのセオドア・ルーズベルト、長期整備後、今年5月に復帰したエイブラハム・リンカーンだ。すでに、ロナルド・レーガンは、日本の海上自衛隊の事実上の空母「いせ」と、共同訓練を実施中だ。

海上自衛隊は海上封鎖ですらできない
 ただし、日本の海上自衛隊は現行法では、海上封鎖を実施できないという。
 たとえば、自衛隊艦船は、放置すれば日本への武力攻撃に至るおそれがある「重要影響事態」の場合のみ、船舶検査を実施できることになっている。しかし、積み荷の押収や武装解除などはできない。不審物を発見しても、「航路や目的港の変更要請」しかできないことになっている。これでは、単に米艦隊の脇に単に着いて回っているだけだ。しかし、そんなことになればどうなるかは明白だろう。
 また、もし戦闘状態になったとき、米艦隊とともに攻撃はできないことになっている。さらに、機雷の敷設や除去すらも国際法では武力行使とみなされるので、これをやると、野党は集団的自衛権の行使と政府を猛烈に批判するだろう。
 しかし、そんなことより日本がもっとも恐れなければいけないのは、万が一アメリカがやるかもしれない北朝鮮への先制攻撃ではない。それによって、被害を受けたとしても、それ以上のリスクがあるのが、アメリカが北の核を容認してしまい、米朝が和解してしまうことだ。
 この場合、日本国は現在のアメリカの属国という位置づけよりもっと悪い位置に転落し、この状況を半永久的に強いられることになる。(了)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。