いよいよ、総選挙が、今日(10月10日)公示されます(編集部註:本記事の初出は10月10日)。安倍政権にとっては「モリカケ問題」の追及を交わすための“大義なき解散”でしたが、それがわかっていながら、野党側は、なぜここまでバタバタになってしまったのでしょうか? とくに「希望の党」を立ち上げてみせた小池百合子の勘違いぶりははなはだしいものがあります。民進党はなくなり、「モリカケ問題」はすっ飛び、結局、このままでは自公政権は安定でしょう。現時点では、そう言い切るしかありません。
結局、出馬しないでいったいなにをしたいのか?
都知事になったときから、小池百合子は最終的には総理を狙っている、初の女性総理になって日本を改革したいのだと、そう私は確信してきた。しかし、「希望の党」を立ち上げて以来、今日(10月9日)までの迷走ぶりを見ると、彼女はなにか大きな勘違いをしているのではないかと思える。
それとも、勘違いしているのは私のほうで、小池百合子は初めから総理になる気はなかったのだろうか? 都知事になったとき、彼女は確か「東京から日本を変えていきます」と言い、その後、都民ファーストの会をつくり、国政に出ていくことを示唆した。しかも、2008年9月の福田康夫辞任後の自民党総裁選には、進んで立候補している。
となれば、今回は総理になる絶好のチャンスであり、なにがなんでも出馬しなけなければおかしい。「都知事をわずか1年で投げ打って国政に出ていくのは都民に対する裏切り行為」などと言われても、「初めからそうするつもりで知事になりました」と正直に言えば、有権者は許しただろう。少なくとも、ここまでは失速しなかっただろう。
解散総選挙の決定に、いきなり、民進党の前原誠司を抱き込んだところまでは、サプライズもあって見事だった。「反自民・反安倍」の人々の期待感は大きく膨らんだ。「モリカケ問題」に納得しない無党派層の期待感も一気に高まった。しかし、その後、今日まで、すべてが失点の積み重ねだ。
「選挙に出ても出なくても無責任」
最初の失点は、彼女のファンで同士と公言してきた、真面目さが取り柄の若狭勝が、「次の次」のような本音(弱気?)発言をしたことだ。
「(小池さんは)今回確実に政権交代できる見通しがあるなら、国政に出ることもあり得る」「調整中の(候補者擁立などの)話を踏まえ、『次の次で確実に交代できる議席数に達する』という思いでいるとすれば、今回の衆院選に小池代表が出なくてもかまわない」
この若狭発言に追い打ちをかけたのが、民進党候補に“踏み絵”を踏ませたことだ。これで、枝野幸男「立憲民主党」ができてしまった。これを見て、自由党の小沢一朗は怒り、無所属で立候補する意向を表明した。さらに、細川護熙元首相も、次のように怒った。
「首相を目指すのであれば、保守やリベラルにこだわらず、器量の大きい人でいてもらいたい」
「(安倍政権を倒す)倒幕が始まるのかと思っていたら、応仁の乱みたいにぐちゃぐちゃになってきた。政権交代までいかなくとも、せめて自民党を大敗させて、安倍晋三首相の党総裁3選阻止まではいってもらわないと」(10月2日「毎日新聞」インタビュー)
このようななかでもっとも的を射た発言をしたのは、“若武者”小泉進次郎ではなかっただろうか。彼は、練馬区・豊島園駅前の街頭演説で、衆院選を「責任対無責任の戦い」と訴え、小池百合子をこう切って捨てた。
「選挙に出ても出なくても無責任。小池さんは無責任のジレンマに陥った」
これ以上見事な批判はない。結局、彼女は傷つくのが怖くて、どこかで出そうと考えていたかもしれない「後出しジャンケン」すらやめてしまったのである。
公約でベーシックインカムの導入を提唱
こうして“勘違い”により、勝負どきを逃した小池百合子が、じつは、その政策においても、たいしたものは持ち合わせいないことが、公約発表でわかってしまった。マスメディアは表向きには批判しないが、あまりにひどすぎで、論評できないとしか言いようがない。
とりあえず、「消費税凍結」や「原発ゼロへ」「議員定数・議員報酬の削減」など9本の柱を掲げたが、その後に「希望への道、12のゼロ」と題して、次の12項目が挙げられている。
①原発ゼロ ②隠ぺいゼロ ③企業団体献金ゼロ ④待機児童ゼロ ⑤受動喫煙ゼロ ⑥満員電車ゼロ ⑦ペット殺処分ゼロ ⑧フードロスゼロ ⑨ブラック企業ゼロ ⑩花粉症ゼロ ⑪移動困難者ゼロ ⑫電柱ゼロ
とりあえず、「原発ゼロ」で有権者を取り込めると考え、その後ゼロをつけられるものを片っ端から並べただけとしか思えない。「ペット殺処分ゼロ」「花粉症ゼロ」などというのが選挙公約なのだろうか?
希望の党の公約はここに
https://kibounotou.jp/pdf/policy.pdf
いちばんの問題は、希望の党には確固たる経済・金融政策がないことだ。安全保障問題がなければ、もっとも大事なのが経済政策だと私は思うが、彼女は経済には興味がないのだろう。
ただし、経済政策を「ユリノミクス」と自ら言い出し、目玉政策として、消費税の増税分5兆円を凍結し、企業の内部留保に課税することを挙げた。そして、驚くべきこと、日本の政党として初めて「ベーシックインカム」の導入を提唱したのだ。
HPには、「ベーシックインカム導入により低所得層の可処分所得を増やす」と書かれている。これは、じつは小池百合子が自ら希望して、公約に明記してほしいと頼んだのだという。しかし、どうやら彼女は、ベーシックインカムがなにか? それが人間社会になにをもたらすか? じつは、わかっていないのではないかと思える。なぜなら、10月6日の公約発表の会見で「AIからBI(ベーシックインカム)へ」と、理解不能なことを口走ったからだ。財源に関して聞かれると、元都議の後藤祐一が「基礎年金、生活保護、雇用保険などを(BIで)置き換えていくことを検討している」とフォローしたが、それ以上の話にはならなかった。(つづく)
【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
この続きは、10月16日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。