連載⑥ 山田順の「週刊:未来地図」 小池百合子の勘違い〜希望の党の公約「ベーシックインカム」の危うさ(下)

日本では「保守」も「リベラル」もない

 日本では、政治的立場は「保守」「リベラル」、あるいは「右派」「左派」の二元論では対立しない。便宜的そう言われているだけで、なにが保守でなにがリベラルか、なにが右派でなにが左派か、入り乱れていてまったくわからない。しかも、自分を保守、あるいはリベラルと思っている政治家自身が、そのことを理解していないのだ。これは、国民も同じだから、そもそも二元論で対立を語ることすらおかしい。よって、選挙は「政策」ではなく「印象」「高感度」「期待度」で決まる。
 北のミサイルが何発発射されても、先制攻撃をできる力を持つべき、核武装するべきだと言うと、似非リベラルから「反平和主義者」と言われるのだから、本当の平和主義者はやっていられないだろう。
 小池百合子は「保守」らしいが、本当の保守なら、国民の人権と自由を徹底的に守り、安倍政権以上の保守路線を取らなければならない。憲法9条に自衛隊を明記するだけのような中途半端な憲法改正に反対し、集団的自衛権も先制攻撃も核武装もできるように憲法を改正することを提唱しなければ意味がない。

まったく意味不明の「AIが決めた」発言

 話をUBIに戻すと、小池百合子は今年の7月、「豊洲・築地併存方針」について、検討記録が残っていないということが毎日新聞の情報公開請求で明らかになったとき、なんと言っただろうか?
 記者からの「情報公開という方針に反するのではないか?」という質問に対して、こう言ったのである。
 「情報というか、文書が不存在であると、それはAIだからです。(中略)最後の決めはどうかというと、人工知能です。人工知能というのは、つまり政策決定者である私が決めたということでございます」
 まったく意味不明だ。AIに決めてもらったから、私の判断は正しいとでも言いたかったのだろうか? 本当によくわからなかった。

「マダム・スシ」を聞いたときの薄ら寒さ

 最後に、小池百合子はもう歳である。高齢者である。なにしろ、私と同い年だ。最近、つくづく時代についていけないと思っている私にとって、彼女は精一杯がんばっているように見える。しかし、残念ながら、お利口すぎて見ていられない。
 UBIに戻るが、これがいまのところAI社会到来に対する解決策として提唱されている「たった一つの方法」であることが始末に悪い。もちろん、私はUBI導入に大反対だが、反対派の意見としてもっとも多いのが、以下のようなものだ。
 「そんなことをしたら、いやいや仕事をしている人間はみんな働かなくなる。そもそも、仕事はしたくないことをやるから仕事ではないのか?」
 じつは私もそう思っていた。しかし、いろいろな記事を読んで、次の言葉に突き当たったときは、愕然とした。『隷属なき道 ― AIとの競争に勝つ:ベーシックインカムと1日3時間労働』の著者のオランダのジャーナリスト、ルトガー・ブレグマンはこう述べている。
 「その質問はだんだんと意味をなさなくなってきている。どのみち、そういった人の仕事は20年以内にはなくなっているのだから」
 この言葉を知ったときの“うすら寒い感じ”は、2007年、小池百合子が渡米して、当時の国務長官コンドリーザ・ライスとの会談に臨んだとき、こう言ったことを聞いたときの感覚とよく似ている。
 「私は『日本のライス』と呼ばれているようですが、日本でライスはコメになります。よって、マダム・スシと呼んでみてはいかがでしょうか」(了)

 
 

pict2-1-2

【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 junpay0801@gmail.com