摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載21) 呼吸器疾患 【5回シリーズ、その3】間質性肺炎(上)

気管支喘息(下)
matenro_01-1
今村 充 Mitsuru Imamura, M.D., Ph.D.
コーネル大学医学部呼吸器内科博士研究員。
2001年、東京大学医学部卒業、医師。08年、東京大学大学院医学系研究科卒業、医学博士。09年、東京大学保健・健康推進本部助教。11年、東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科助教。12年、ハーバード大学Brigham and Women’s Hospital博士研究員。13年11月から現職。日本アレルギー学会認定専門医および日本呼吸器学会認定専門医。

先週まで2回にわたり気管支喘息を説明いただいたコーネル大学医学部の博士研究員今村医師に、もう1つの専門分野である間質性肺炎について聞いた。豊富な臨床経験に基づく先端の研究現場からの最新情報をお届けする。

Q間質性肺炎という病名は時々、耳にします。歌手の美空ひばりさん、作曲家の武満徹さんなどこの病気で亡くなった有名人もいて、命に関わる病気というイメージがありますが、正確に理解されているとは言い難いです。一般の肺炎とはどこが違うのですか?
A間質性肺炎はその名の通り肺の「間質」に炎症が生じる病気です。一般の肺炎では空気の通り道である気管支やガス交換に関与する肺胞に、細菌、ウイルスなどの感染症が原因で炎症が生じます。一方、間質性肺炎の場合、病変の主な場所は肺胞ではなく、それを支える構造部分(これを「間質」と言います)です。

Q具体的にどの部位なのですか?
A鼻や口から吸いこまれた空気は、何度も枝分かれする気管支を通った後に肺胞に行き着きます。直径0.1から0.2ミリぐらいの袋がぶどうの房のように集まっている器官で、肺の大部分を構成しています。肺胞では、空気中の酸素が、毛細血管で運ばれて来た血液中の二酸化炭素と交換されます。その肺胞の壁に当たる部分が「間質」です。間質性肺炎は、肺の間質に広範囲に炎症が広がる病気です。

Qどのような症状があるのですか?
A 労作時の呼吸困難と咳ですね。進行した場合には安静時でも息が苦しくなります。また、咳に関しては、痰をほとんど伴わない乾いた咳が特徴です。

Q原因はどのようなものがあるのですか?
Aこれが大変複雑なのですが、まず、原因が特定できるタイプのもの(二次性間質性肺炎)と、原因がはっきりわからないタイプ(特発性間質肺炎)に大別されます。

Q「原因不明」と聞くと不安かつ興味深いですが、最初に「原因の分かるタイプ」について教えてください。
A 二次性間質肺炎の原因として多いのは、膠原病やサルコイドーシスなど、全身性疾患に合併するタイプです。膠原病とは本来、体内に侵入するウイルスのような外敵を攻撃するはずの自己防衛的な免疫細胞が、何らかの原因で自分の組織や臓器を攻撃してしまうさまざまな自己免疫疾患の総称です。膠原病は女性に多く、中でも「関節リウマチ」は、有病率が世界の人口の1%程度と患者数が多い疾患です。膠原病の多くの疾患では間質性肺炎を高率に合併します。関節リウマチでは1割程度、また例えば「全身性強皮症」という膠原病では、9割以上の患者さんに間質性肺炎を合併します。これらの疾患では免疫異常が間質性肺炎の病態・発症に密接に関わっていると考えられます。

Q他にはどのような原因がありますか?
A粉塵を繰り返し肺に吸い込むことによって間質性肺炎が起こることもあります。無機物だといわゆる「じん肺」ですね。長年にわたる鉱山労働やトンネル工事などで吸い込むケイ酸が原因の珪肺(けいはい)症や建設業や造船業労働者に多い石綿肺などがあります。また、有機物の粉塵や化学物質を繰り返し吸入することでも間質性肺炎を来たし、その場合は過敏性肺炎と呼びます。例えば「夏型過敏性肺炎」は家の中に生じたトリコスポロンというカビを吸入することで発症します。農業従事者の過敏性肺炎は「農夫肺」と呼ばれ、サイロの牧草に繁殖した放線菌の胞子や、キノコ、サトウキビなどの農作物の粉塵吸入が原因となります。鳥の排泄物、羽毛などの吸入は「鳥飼病」と呼ばれる過敏性肺炎の原因となります。粉塵吸入の他には、一部の感染症や放射線、薬剤によるものなどが間質性肺炎の原因となります。

Q薬が肺炎の原因になるのですか?
A 風邪薬の一部や漢方薬または処方箋薬、サプリメントなどの健康食品にも間質性肺炎を発症する危険のあるものがあります。一部の薬剤(抗がん剤のゲフィチニブ、抗リウマチ薬のレフルノミドなど)による間質性肺炎は、諸外国に比べて日本人に生じる頻度が特に高いことが知られており、社会問題にもなっています。

Qそうした原因で発生した間質性肺炎は治療できるものなのですか?
A 薬剤や粉塵吸入が原因の間質性肺炎の場合、原因を除去することが一番の治療となります。薬剤であれば原因となる薬を中止する。粉塵吸入であれば、粉塵のある環境を離脱することが大切です。軽症であれば原因の除去だけで間質性肺炎が治ることもありますが、多くの場合、ステロイドや免疫抑制剤を用います。また関節リウマチなど全身性の疾患が原因の方の場合もステロイドや免疫抑制剤が有効な可能性があります。

Qつまり「原因を突き止めて叩く」というわけですね。それにしても、簡単には治らないような印象ですが。
A その原因を特定する作業自体が、かなり専門的な知識と経験が必要でなかなか難しいのです。そして、一定以上進行して「線維化」という現象が起きてしまうと治療を始めても元には戻りません。「進行をいかに食い止めるか」しかないのです。

間質性肺炎の主な分類

間質性肺炎の主な分類


health_Balloons
Q次は診断についてですが、どんな検査で分かるものなのですか?
Aそれについては次週、詳しく解説します。       (つづく)

*間質性肺炎についてより詳しく解説するため、当初の予定を変更し、呼吸器疾患は5回シリーズでお送りいたします。