日本の薬剤師・薬学博士で、現在コロンビア大学で博士研究員をする樋口聖先生による「米国市販薬(OTC)講座」。胃腸薬や鎮痛剤など、毎回テーマを絞り、OTCの種類や、安全な選び方を教わる。先生自身まだ在米2年。米国のOTCには驚かされることもしばしばだという。「一緒にファーマシーを紙面探訪して、賢い消費者になりましょう!」
第3回「風邪薬」前編
総合感冒薬の3つの効果:解熱、咳止め、鼻づまり緩和
10、11月号は風邪薬についてです。今月は前編として、総合感冒薬と鼻づまり緩和剤を取り上げます。インフルエンザの場合も、風邪用のOTC薬で症状を緩和させることはできます(インフルエンザウイルスを退治するOTC薬はありません)。有効成分と容量を理解して上手に活用しましょう。必要に応じて主治医に相談してください。
①総合感冒薬
例外もありますが、多くはアセトアミノフェン(解熱=9月号参照)、デキストロメトルファン(咳止め)、フェニレフリン(鼻づまり緩和)の3有効成分の混合剤です。昼用、夜用、または昼と夜用が同じ箱に入ったコンボ商品もあります。一般にアジア人と欧米人では、薬を代謝する肝臓の酵素が異なるので、容量が多い「マキシマムストレングス」は避けた方が賢明です。▲デキストロメトルファン(薬の箱には「DM」と表記されています)は、脳に働きかけて咳を抑える薬。日本では1回15から30mgが目安ですが、米国ではマキシマムストレングスとして60mg含む商品もあるため要注意。僕自身、うかつにも60mgを服用して気分が悪くなったことがあります。また、パーキンソン病や一部の精神疾患治療薬は、DMとの飲み合わせが悪いとされています。服用中の人は必ず主治医に相談を。ちなみに、日本のOTCで一般的な咳止め薬「コデイン」は、米国では販売されていません。ただし、DMの方がコデインより便秘などの副作用は少ないです。▲フェニレフリンは、血管を収縮させることで鼻づまりを緩和する薬です。
②鼻づまり緩和剤
総合感冒薬で紹介したフェニレフリンの他に、プソイドエフェドリンがあります。これらを含む薬が、いろいろなブランド名で販売されています。いずれも血管を収縮することで鼻づまりを緩和する薬ですが、プソイドエフェドリンの方がフェニレフリンよりもはるかに作用が強力です。プソイドエフェドリンは一般に「シューダフェッド(Sudafed)」の商品名で知られています。OTCとはいえ強力なので、乱用を防ぐため、また覚せい剤の原料にされる恐れがあることから、購入制限されている薬です。ファーマシーの棚には薬そのものは陳列されておらず、その代わり薬を説明した「カード」が置いてあるので、それを支払いカウンターに持っていき、氏名、住所、連絡先を記入して購入します。1年間に購入できる容量が決まっており、誰がどれだけ購入したかを政府が管理する仕組みです。フェニレフリンはそうした制限はありません。これら鼻づまり緩和剤は血管を収縮するため、カフェインと一緒に摂取すると動悸を起こすことがありますので、コーヒーなどと一緒に飲まないようにしてください。
※基礎疾患がある人は、市販薬であっても服用時に主治医または薬局の薬剤師に相談を。
知っておきたいファーマシー用語
OTC(Over The Counter)Drug
=一般用医薬品(俗にいう市販薬)。処方せんがなくても薬局で買える薬。
Active Ingredient=有効成分(薬効を示す物質)。薬の箱の裏に明記されている。
樋口聖 Sei Higuchi, Ph.D.
博士(薬学)、薬剤師(日本の免許)。城西大学大学院・薬学研究科修士課程修了、福岡大学大学院・薬学研究科博士課程修了後、京都大学医学部博士研究員。2015年からコロンビア大学博士研究員として、糖尿病の研究に従事。